VSボス戦! 叩け! 殴れ! 忍び寄れ!
俺は深呼吸をして呼吸を整える。
無理なスキルの連続使用による魔力酔いは収まってきた。
コガさんと自律分身の安全はまだ確認できていない。
その周囲で判断分身がザココボルドと戦っている。
戦力は拮抗しているから、すぐに倒されはしないだろう。
まずはボスを倒すとしよう!
そうすればザコも弱体化するはずだ。
水噴射で押し流したボスの取り巻きも立ち上がり始めた。
オカダがそれを殴りつける。
「寝てなッ!」
もぐら叩きのようだ。
強化された肉体から放たれたパンチはすさまじく、一撃でコボルドを塵に変えていく。
もはや、囲まれようがお構いなし。
剛腕で敵を殴り散らしていく。
こちらは任せておいて大丈夫だろう。
俺はボスへ注意を向ける。
モヒカンコボルドが俺に憎悪の目を向けている。
「ガァァーッ!」
モヒカンは口の端から泡立った唾液をまき散らしながら吠える。
その姿に知性は感じられない。
今はモンスターに成り下がっているとはいえ、元は人間のはずだ。
問答無用で始末はできない。
あまり期待できないが万が一の可能性はある。
俺は対話を試みる。
「なあ。もし人間としての意識が少しでも残っているなら、戦いをやめて話し合ってみないか?」
モヒカンコボルドは牙をむいて唸る。
「グルル……ツブス! タタキツブス!」
大棍棒が振り下ろされる。
俺はそれを下がって避ける。
硬い床にぶち当たった棍棒が火花を散らす。
「やれやれ! やはり話は通じないな!」
そう言いながら跳躍。
大棍棒を踏みつける。
「ヌゥッ!?」
モヒカンは力任せに、上に乗った俺ごと棍棒を持ち上げようとする。
俺は足裏を吸着させる。
「もらったっ!」
俺は力任せに持ち上げられた棍棒の上でバランスを取り、クナイを走らせる。
狙いは棍棒を掴む指!
すぱりと、数本の指を斬り飛ばす!
「ギャァア!」
叫び声をあげながら棍棒を取り落とすモヒカン。
そして苦し紛れに素手で殴りかかってくる。
俺はその一撃を回避。
俺が下がるのと入れ替わるように、オカダがモヒカンへ突っ込んでいく。
「おらあッ!」
「ウゴォッ……」
鋭いボディーブロウに、モヒカンが体を折る。
効いている!
すでにヒットポイントは削れている!
周囲を確認。
もうザコはオカダが仕留めている。
オカダは執拗にボディブローを叩きこんでいく。
「さっきは! よくも! やりやがったなっ!」
「ウグ……! グアッ! ゲホォッ……!」
モヒカンは両腕で防御しようとしている。
だがガードのスキマを縫って打撃が打ち込まれていく。
一発一発が的確に腹を撃ち据える。
そのとき――ピリついた感覚を覚える。
【危険察知】の反応!?
「なにかヤバイぞっ!」
危機感の発生源はモヒカンコボルド!
俺は背後へ飛びすざって防御態勢を取る。
「――ウガァァァッ!」
「な――!」
モヒカンの体から、なにかが放たれる。
それを受けて、オカダがのけぞる。
おそらくは、目に見えない衝撃波のようなもの。
さいわい距離を取った俺にはほとんど届かない。
のけぞり、無防備になったオカダの両腕をモヒカンがつかむ。
そして大口を開け、オカダへとかぶりつく!
「モラッタァァァ――!」
バランスを崩しているオカダは突き放せない。
もはや避けられないと悟ったオカダがこわばった顔で叫ぶ。
「うおぉぉー!?」
牙がオカダの首筋に到達する――
――その寸前。
俺はボスの背後へ忍び寄り、クナイで首をかき切る。
完全な不意打ち。完璧な手ごたえ!
「グッーー!?」
小さなうめきを残して、ボス個体が塵に変わる。
生成された魔石を引き寄せてキャッチする。
無言、無音でのサイレントキリング。
久しぶりの【暗殺】【致命の一撃】である!
オカダが困惑したように言う。
「えっ!? ……終わりか? ゼンゾウが倒したのか!?」
「ああ。横取りして悪かったな。でも早いもの勝ちだろ?」
噛みつかれてもオカダは死ななかったはず。
きっと反撃して、勝てただろう。
でも、ノーマークの俺がなにもせず見ているってのもね。
「おう! オーケーオーケー! グッジョブだぜゼンゾウ!」
「まだ気を抜くな! コガさんと自律分身を――!」
ボス撃破の余韻に浸っている場合ではない。
俺はコガさんたちに注意を戻す。
振り向いた先では――倒れた自律分身の上にコガさんが覆いかぶさっている。
良く見えない。何をしているんだ!?
まさか――?
血の誘惑に負けてしまったのか!?
オカダと俺はちらりと目線を交わす。
焦りと不安が読み取れる。俺もそうだ。
どうか、はやまらないでくれよ! コガさん!
俺とオカダは二人のもとへと走り出した。




