VSボス戦! 叫べ! 放て! 押し流せ!
ボスの咆哮により、取り巻きのコボルドが強化されている。
いわゆる集団強化。士気高揚効果か!?
敵の攻めが苛烈になっている。
自律分身がコガさんへ叫ぶ。
「壁を背にしろ! 囲まれるな!」
「はいっ……ああっ!?」
コガさんが棍棒の一撃を血の爪で受ける。
耐久を越えた爪が砕け散る。
そこへさらにコボルドが襲いかかる。
よろけているコガさんは動けない。
振り上げた棍棒がコガさんの頭蓋を粉砕しようとしている!
コガさんは頭を抱えしゃがみ込む。
そして――悲痛な叫び声をあげる!
「た、たすけてェッ!」
その声は俺の心を強く揺り動かす。
「――うっ!?」
すぐに助けなければ!
何もかもを振り捨てて守るんだ!
強迫観念じみた強い感覚が俺を支配しようとする。
だがその心の動きを【精神耐性】が抑える。
この揺り返しが、俺に迷いをもたらす。
コガさんを守るべきか!?
そうすべきではないのか!?
どちらの判断が正しいのかわからない。
いや、見捨てる選択肢などあってはならない!
迷っていたのはほんの一瞬。
致命的な一瞬だ。
俺は動けない――
だが自律分身は動いた。
刀を構え、倒れたコガさんの前に立ちふさがる。
その姿はさながら弱者を守るヒーローのようだ。
しかし、そういう立ち回りは――!
「アウオォ!」
コボルドが雄叫びとともに棍棒を振る。
それを自律分身は刀で受け――
――キィンと高い音を立てて刀が折れ、棍棒が自律分身の肩へ打ち込まれる!
「ぐっ……!」
自律分身が膝をつく。
「ぐっ……!?」
「アウッ!」
さらにコボルドが追撃する!
自律分身は動けずに、もろに攻撃を受けている。
ついに吹き飛ばされた自律分身は――動かない。
周囲には多数の敵。
オカダは敵の海に沈んでいる。
コガさんは頭を抱えて震えている。
自律分身も倒れた。
あっという間に全滅寸前に追い込まれている!
その危機感が意識を加速させる。
呆けている場合か!
迷うな! 動け!
目の前に敵が迫っている。
体はもう動いている。
「ファストスラッシュ! 分身の術!」
俺はクナイを一閃してコボルドの喉を切り裂く。
それと同時に放った分身が周囲の敵へ向かう。
さらに分身を展開していく。
倒れた二人を守ること。周囲の敵へ攻撃すること。
シンプルな命令を下し、とにかく数を出す。
数には数をあてる!
さらに重ねて術を練る。
少し集中時間が要る――!
コボルドが攻撃動作に入る。
しかし遅い。
「ウガァッ!」
棍棒の一撃を軸をずらしてかわす。
そして逆手に持ったクナイで手首をホールドしながら肩口を押す。
「せいっ!」
手首を切り裂き、関節を砕く。
投げ飛ばされたコボルドが後続の敵へと突っ込んでいく。
これで周囲にスペースが開いた。
そして術の集中も終わった。
もはや手の内を隠している場合ではない!
いざというときのために強化しておいた忍法を使う!
「水忍法――水噴射!」
腰だめに構えた両腕から水流がほとばしる!
さながら水の柱。
勢いよく流れ出た濁流が敵を襲う。
「ウガッ!?」
「ギャゥゥ!」
近場のコボルドたちが次々と吹き飛んでいく。
さらに続けて放水!
オカダのいるあたりに狙いをつける!
「うおお……おりゃあっ!」
強い反動に足がずりずりと滑る。
足裏に【吸着の術】をかけて踏みとどまりながら両腕に力を込める。
横へなぎ払うように水流を放っていく。
そのまま水流が、少し離れた敵集団へ達する。
オカダも巻き込むが、しかたない!
「アギャァ!」
「ゴボッ!?」
敵は足を取られて転倒し、わめき声をあげる。
そして、なすすべもなく押し流されていく。
ボス個体を含めて、立っている者はいない。
俺はめまいを覚えて術を中断する。
「う……!?」
急速な魔力使用の反動。魔力酔いだ。
今は丸薬も魔力回復薬もない。
無理はできない!
最初に立ち上がったのはオカダだ。
水浸しになって困惑している。
「な、なんだァ!?」
「オカダ! 本気でやれっ! 遊んでる場合じゃない!」
オカダはまだ変身していない。
人間の姿のままだったから、囲まれてタコ殴りにされてしまっていたのだ。
「ゼンゾウのおかげか! よくわからねーが助かったぜ!」
そう言うとオカダは体を変化させていく。
顔に血管が浮かび、どくどくと脈打っている。
緩めのパーカーが、盛り上がる筋肉に押されてふくらんでいく。
服の上からでもわかるほどの筋肉量。
そして口元から鋭い牙がのぞく。
変身――【身体一時強化】を使ったのだ。
「しゃあっ! さんざんぶっ叩いてくれたな! 倍返しにしてやらぁ!」
「一気にボスを倒すぞ!」
よし! 反撃開始だ!
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