集団戦! 周りをよく見て戦おう!?
山肌に開いた洞窟から、コボルドがぞろぞろと姿を現す。
手にはそれぞれ棍棒を握っている。
「グルル……」
「ウゥゥ!」
凶悪な顔で歯をむいてうなるコボルド。
一匹一匹は強くない。
だが群れているとなると話は変わる。
オカダは拳を胸の前で叩きつけ、好戦的な笑いを浮かべる。
「おいでなすった! 早い者勝ちってことでいいよな! ゼンゾウ!」
「おう! 存分に暴れてくれ!」
俺も戦うが、がっつく理由はない。
あくまでもサポートするだけだ。
「あはっ! そういうことなら私から!」
「おい! 前に出過ぎるなよ!」と自律分身。
コガさんが走り出す。
血の爪を構えながら敵の中へ。
自律分身が刀を手にコガさんの後を追う。
背後をカバーするつもりだ。
「あはっ! あははっ!」
コガさんの爪が敵を切り裂く。
しかし別の個体がコガさんを狙う。
「危ないぞ! うりゃあっ!」
自律分身が敵の動きをなんとか阻止。
俺はスキをうかがっている別のコボルドにナイフを放つ。
肩口に命中。コボルドは動きを止める。
そいつにコガさんがトドメを刺し、次の相手に向かっていく。
被弾上等で突っ込むはいいが……危ういな。
オカダも敵へと突っ込んでいく。
「はははーっ! 来いよっ!」
「ウッ!」
コボルドの顔面に右ストレートが炸裂。
後ろにのけぞったコボルドが仲間を巻き込んで倒れる。
オカダはステップを刻んで右側の敵へと距離を詰める。
攻撃をかいくぐり、一発当てては離脱を繰り返す。
いいね。
こちらは囲まれる状況は作らない。
変身も使わず、余力を残している。
俺は投げたナイフを【引き寄せの術】で戻してまた投げる。
数本のナイフを使いまわしながら援護を続ける。
自律分身は被弾を避けながらコガさんの周囲の敵を押し返す。
コガさんはときおり大振りの攻撃を放つ。
今のは自律が避けなかったら危なかったぞ!?
「コガさん! もうちょい背後に気を使え!」
「えー? 大丈夫ですよー!」
うーん。
目の前の敵を倒そうとするあまり、周囲が見えていない。
刻々と変わる状況の中で、把握しなければならない情報は多い。
敵の移動方向や数。
仲間の立ち位置、自分の攻撃範囲。
体力や魔力、負傷の程度……。
「はあっ……はあぁっ! 死んでっ!」
案の定、コガさんはペースが落ちてきている。
それでも前に出続ける。
「おいっ! 少し下がれ!」と自律分身。
「イヤです! こんなザコ相手に逃げるなんて!」
「逃げるのと位置を変えるのは違う! 周りを見ろ!」と自律分身。
前へ前へと進むだけが戦いではない。
闇雲に突っ込めば敵に囲まれてしまう。
そうなっては、ザコ相手とはいえ限界がある。
コガさんは急に強い力を手に入れたから、戦いのセオリーがわかっていないのだ。
それでも吸血鬼の力でごり押しできてしまう。
そんな戦い方では強敵を前にしたときに脆い。
これは、後でちゃんと教えてやらないとな。
今、口やかましく言っても聞きはしないだろう。
自律分身にも疲労が見える。
普段と違って、ムリのあるカバーを続けているからだ。
「自律! 交代だ!」と俺。
「おう! 頼むぜ俺!」と自律分身。
自律分身が場所を開ける。
開いた場所に俺が入り、コガさんをカバーする。
ただし、自律がしていたよりも援護を弱める。
致命的な攻撃は阻止しつつ、それ以外の敵の行動は通す。
コガさんが棍棒の一撃を腕で受ける。
「いたっ! ちょっと!?」
「右から来てるぞ! さがれ!」
血の爪は先ほどの攻撃で砕けてしまっている。
新しい血で爪を伸ばしながらコガさんが後退する。
「ああもうっ!」
「んじゃ、ちょっと時間を稼ぐぞ!」
そう言いながら俺はコガさんの前へ。
踏み込みながらコボルドの喉をクナイで切り裂く。
「ガァァ!」
「おっと!」
叩きつけられた棍棒を最小の動きでかわしながら、脇の急所を切り裂く。
二匹のコボルドが向かってくる。
俺は手を差し向けて術の狙いをつける。
空中で手を後ろに引く動作をしながら術をかける――
「――引き寄せの術っ!」
術の狙いは後ろの敵の棍棒!
手の内から棍棒がすっぽ抜ける。
その棍棒は勢いよく飛んで、前のコボルドの頭にめり込む。
「ウッ!?」
「アガッ!?」
つんのめって倒れた一匹目の頭上を飛び越え、後ろのコボルドの顔面へ飛び蹴りを入れる。
さらに空中を蹴って背後へ跳ぶ。
二本のナイフを投擲して、ぞれぞれのコボルドへトドメを入れる。
着地。
最初に斬ったコボルドが床に倒れ、塵に変わる。
「おっ! やるじゃねーかゼンゾウ!」
「そっちもな!」
オカダも着実に敵を減らしている。
この群れももう少しで片付くだろう。
「私もやれますよっ!」
コガさんが再び伸ばした血の爪を構えて、コボルドへ突っ込んでいく。
うーん。血気盛んだこと!
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