魔石の使い道がないなら、作ればいいじゃない!
移動しながら戦闘をくり返す。
コガさんはさっきまでの逃げ腰が嘘のように、敵を見つけては突っ込んでいく。
「あははっ! 見てください! こんなに簡単に倒せますよっ!」
「いいねえ! どんどんやっちゃおうかー!」
オカダも楽しげに拳をふるっている。
敵の数は多くない。
俺が戦わなくても手は足りている。
とはいえ、なにもしないのもヒマである。
せっかくなので、武器庫から持ってきた投げナイフを試そう。
腰袋から取り出したナイフを手のひらに乗せて――投擲!
「ていっ――うん。悪くない!」
投げたナイフがコボルドの喉を貫く。
狙い通り!
ダメ押しでもう一本!
コボルドが倒れて、魔石に変わる。
俺はナイフと魔石を拾う。
ついでに、二人が倒した分も引き寄せて回収。
二人は魔石には興味がないようだ。
トウコのように魔石に食欲をそそられていない。
俺のように素材としての魅力も感じていないようだ。
普通なら魔石は外に持ち出せない。
厳密に言うと、悪性ダンジョンからダンジョン領域へは持っていける。
その先、現実世界に持ち出せないのだ。
境界線を越えるとすぐに、魔石は塵になって消えてしまう。
悪性ではない普通のダンジョンの場合は、そもそも入口にひっかかって出られなくなる。
どちらの場合も魔石は持ち出せない。
でも魔石の使い道はある。
この場でクラフトに使うのだ。
【忍具作成】で加工した品は、実は持ち出せる。
ショッピングセンター事件のとき、武器を持ったまま領域外に出ていた。
悪性ダンジョン領域は、いわばダンジョンと現実世界の中間。
ここを経由することで、クラフト品を持ち出せてしまうのだ。
ちなみに収納に入れたクラフト品も現実世界で取り出せる。
吸血鬼の売人と戦ったとき忍者刀で戦ったしな。
しかし、ポーションはいずれの方法でも取り出せない。
……というか、取り出そうとするとヤバい感覚を覚えるのだ。
外に出してはいけない、使ってはいけない。
そういう強い警告の感覚……。
ポーションは、悪性ダンジョン領域ですら、この感覚がある。
普通のクラフト品にはこの警告感がない。
つまり、禁止度が低いか、そもそも禁止されていないのだろう。
というわけで今回は【中級忍具作成】で武器を作る!
素材は投げナイフ数本。それと充分な数の魔石。
作るのはクナイである。
やはり使い慣れたものがいいよね。
オカダとコガさんが周囲の敵を片付けてくれているので、ゆっくりクラフトに励める。
ついでに【自律分身の術】も使っておこう。
この術は前にオカダに見せているし、隠す必要はない。
【水忍法】や【精神耐性】は万一を考えて伏せている。
二人が裏切ると考えたくはない。
だが、そういうことも想定しておく必要がある。
俺だってお人よしのお花畑ではない。
一応の備えである。
「自律分身の術! とりあえず見張りを頼むぞ、俺」
「任されたぜ、俺!」
俺は刀を自律に手渡す。
余分な武器がないので、作ってしまおう!
【忍具作成】君は一発で作成してくれた。
めずらしく普通の忍具である!
ん……?
いやいや、いつもだって忍具を作ってますけどね!
コガさんが少し先で振り返っている。
顔を紅潮させ、待ちきれない様子だ。
「ゼンゾウさーん。はやく先へ行きましょう!」
「すぐ行く! あんまり離れないでくれ!」
オカダがコボルドの顔面を拳で打ち抜き、爽快そうな表情で言う。
「ふうっ! 今日はやり放題だ! アガるぜェ!」
「おう! おかわりもいいぞ!」
モンスターを狩り続ければ、いずれボスモンスターが現れる。
あるいは、こちらからボスを探してもいいだろう。
コガさんは戦闘に慣れて、すっかり楽しんでいる。
楽しみすぎているのは気になるが……。
だけど、戦えないという心配はなくなった!
一歩も二歩も前進である!
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