六階層攻略! その2 ロック&ロール!
「――戦闘開始だ!」
分身を斥候ゴブリンへ突っ込ませる。
まずは小手調べ。
「ギギッ!」
斥候ゴブリンはバックステップして背後へ下がる。
入れ替わるようにナイフゴブリンが前に出る。
ゴブリンは前に出ながら、分身の喉元めがけてナイフを突き出す。
俺は素早く分身を操作。回避させる。
さらに、突き出されたゴブリンの腕にナタを振り下ろさせた!
――おしい!
ゴブリンは腕を引き戻す。攻撃は空を切る。
自律分身は渡しておいた装備を身に着けて、分銅を振り回している。
対峙するのは盾持ちゴブリンだ。
「ていっ!」
分身が気合と共に分銅を放つ。狙いは盾からはみ出ている頭部だ。
分銅は、鋭く直線的な軌道で飛ぶ。
――ゴブリンが盾を動かし、持ち上げる。
分銅は盾に弾かれる。
木の盾が軋んだような音を立てる。
自律分身は分銅を引き戻しながら後退する。
俺は普通の分身に腰だめ突撃を指示する。狙いはナイフ持ち。
分身が捨て身の突撃をしかけるタイミングで、俺も走る。
壁を走り、分身と並走する。
同じタイミングでの攻撃。そして、違う角度からの攻撃。
これはかわせまい!
ゴブリンが分身の腰だめ突撃を回避して身をよじる。
そこへ、俺が走り抜けながらバットを振るう――
「うりゃああ! くらえっ!」
ラリアットのようにゴブリンの首を強打し――ゴブリンが殴打の勢いでのけぞり、半回転する。
勢いよく頭を石畳に打ち付けたゴブリンは塵と化す。
まずは一匹、片付いた!
腰だめ突撃をかわされ、そのまま走り抜けた分身は、その先の盾持ちゴブリンへとぶち当たる。
――だが、盾で防がれた。
そのまま踏みとどまった盾持ちゴブリンが鼻息のような声をあげ、力任せに盾を押し返す。
吹き飛ばされた分身は倒れて、塵と消える。
ガードの下がった盾持ちへ向けて、自律分身が再び分銅を放つ。
「そこだっ!」
ゴブリンは頭を守るように盾を持ち上げ、頭部を守る。
盾の上部でワイヤーは受け止められた。
――だが、今度は防げない!
山なりの軌道で放たれたワイヤーが、盾を支点にして回り込む!
「――ゴギぁっ!」
脳天に分銅を受けた盾ゴブリンが悲鳴をあげ、膝をつく。
派手に血を噴きながらも、まだ倒れない。
俺は棒手裏剣を放って、その首元へ打ち込む。
盾が手を離れて転がる。ゴブリンは塵となる。
遅れて、盾も塵となる。
――その陰から、ローブのゴブリンが現れる。
なにやら、ぶつぶつとつぶやいている。
――これはまさか、魔法の詠唱ってやつか!?
杖の先にはなにか――力が集まり渦巻いている!
「ゴブ……ゴブブ……ゴブブァァーゥ!」
ローブのゴブリンが杖を突きだし、何かを叫ぶ。
やはり魔法! そして狙いは俺だ!
――だが、俺のほうが早い。
こちらに杖を向けるゴブリンへ向けて手裏剣を――
「ッッ! あぶねえっ!」
――俺を狙って、ナイフが飛来する。
手裏剣を放つ動作を中断して、壁を蹴る。
斥候の投げナイフを、かろうじてかわす。
俺のすぐそばをナイフがかすめる。
後方でナイフが壁面に弾かれ、甲高い音を立てた。
なんとかかわしたが……手裏剣を放てる体勢ではない!
壁を蹴って空中にいる俺に――ゴブリンが杖を向けている。
「――ゴブウァァ!」
――その杖から火炎の奔流が放たれた。
「やっべえッ!」
ほとばしった火炎が迫る――天井を蹴って逃れたいが――間に合わない。
そのとき、自律分身の声が聞こえた。
「――届けっ!」
自律分身が放った分銅が、杖を構えたゴブリンの足をからめとり、引き倒す。
そのおかげで、火炎の狙いが逸れる。
「――おお! 助かったぜ!」
火炎は俺から逸れて天井を焦がす。
はじけた火炎が、俺の周囲へ降り注ぐ。
そのとき、斥候ゴブリンがいつの間に自律分身の背後に回っているのが視界の端に見えた。
俺は空中で手裏剣を投擲する。
さらにもう一投。
「よし! 命中!」
手裏剣が命中して、斥候ゴブリンが倒れる。
自律分身も、引き倒したローブのゴブリンに逆側の分銅でとどめの一撃を加える。
――これで、すべてのゴブリンを倒した。
「ふう……倒したな! ――あちっ」
俺は、服の端がちょっと焦げているのを手ではたいて消す。
大事な一張羅だぞ!
燃えたらどうしてくれる。
「結構強くないか……ゴブリンだよな?」と自律分身。
「だと思うが……。ちょっと急に成長し過ぎじゃね?」と俺。
ここのゴブリンは、結構強かった。
もしかすると、これがゴブリンの真の姿なのかもしれない。
これまでのゴブリンは弱すぎた。
劣化版だったのかもしれない。
レッサーゴブリンとかね。
ゴブリンの下級種なんて、あまり聞かないが……下には下が居るのかも。
これまで、下級ゴブリンと戦って苦労してたのか、俺?
そしたら俺、弱すぎない?
……そうなの? まさかね?
いや、そんなわけないな。
モノリスに入れたとき魔石は『ゴブリンの魔石』になっていた。
今までのが普通のゴブリンだ。
こっちが上位種か、高レベル版なんだろう。
あとで、こいつらの魔石を入れて名前を確認してみよう。
地味に敵の名前を知る手段として使えるな、モノリス。
この階層のゴブリンは、役割……あるいは職業を得た。
それに伴って、おそらくステータスも上昇しているだろう。
もしかしたらレベルも高いのかもしれない。
階層の倍くらいのレベルが適正ではないかと、俺は思っている。
ここは六階層だから、俺の今のレベルでは適正を超えている可能性もある。
適正レベルについては明確にわかってはいない。
少なくとも雑魚狩りを続けていても、レベルアップしにくくなることはわかっている。
やはり六階層は、格上の難易度なのかもしれない。
今回、ケガはなかったが危ない場面はあったからな。しかし――
「――こりゃ、厄介だな」
「その割には、なにニヤけてんだ?」
――おっと。口元が緩んでしまった。
厄介な敵だ。
――そして、歯ごたえのある敵だ。
これまでのゴブリンはまるで鈍かった。
ここでは、ちょっとした連携までしてくるじゃないか。
本気で戦えるってことは、それだけ俺も成長できる。
今の戦闘からも、得られるものはたくさんあった。
低階層で雑魚狩りをくり返していては到底味わえない充実感だ。
斥候の探知のせいで不意打ちを取りにくい。
ナイフ持ちはアタッカーなんだろうが……大した脅威じゃなかった。
活躍させる前に倒せたのがよかった。
盾持ちと魔法使いの組み合わせは……なかなか邪魔くさい。
魔法は詠唱時間があるらしく、すぐには撃ってこない。
だが……撃たせると危険だ。
火炎放射のような魔法は、狭い通路では避けるのが難しい。
避けたあとも、しばらく火が残っている。
あたりまえだが、その火にも気を付けなければいけない。
「まあ、対策は色々わかった。次はこっちから仕掛けていこうぜ!」
「おう!」




