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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
五章 本業は公儀隠密で!

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捕食者の本能!

 コガさんが石に足を取られて躓く。


「あっ……!」


 転んだ!

 やはり、助けたほうがいいだろう。


 俺は術の準備を始める。

 オカダが俺の動きを手で制す。


「まあ、そのまま見とけよ。ゼンゾウ。ここで戦えないなら、コガちゃんはこの先、どうせ生き残れない」

「だから、そのために手助けをしてあげたいじゃあないか!?」


 彼女の置かれた状況は複雑だ。

 血液パック事件で危険視されていること。

 戦闘への意欲が低く、任務での貢献が見込めないこと。


 どうしても評価が低くなってしまう。

 成果を上げないと、どのみち未来がないのだ。


 吸血鬼を雇う……世間から隠すリスクは公儀隠密にとっても大きい。



「いや、コガちゃんだって吸血鬼だ。()()()戦い方はわかるんだって!」


 コボルドが彼女に迫る。

 倒れたまま、彼女は目をぎゅっとつぶっている。


 彼女は体をかばうように手を差し出す。


「こ、来ないでっ!」

「ガウッ!」


 コボルドの棍棒がその手を打ち払う。

 ごきっ、と手の骨が砕けるようなイヤな音。


「きゃああっ!」


 腕が折れたようだ!


 もう限界だ! これ以上放置はできない!

 しかしオカダが俺の肩をつかんで離さない。


「放せ!」

「待てって! もうちょい!」


 コガさんはぶらりと垂れ下がる腕をもう一方の手で押さえる。

 絶望したような、悲痛な叫びをあげる。


「ああああっー!」

「ガウッ!」


 だがコボルドはかまわずに、いや、ますます勢いづいて彼女に向かっていく。

 コガさんが腕を押さえながら立ち上がる。


 先ほどの表情とは一転――怒りの表情だ。

 見開いた目は赤々と輝いている。


「こ、こんなっ! よくもっ!」


 コガさんがコボルドの顔面に折れた腕を向ける。

 腕はぶらりと垂れ下がり、血が滴っている。


「よくもよくもよくも……!」


 すると、腕から滴っていた血が動き始める。

 まるで逆再生されるように腕を這い上っていく。


 そしてその血が手の先で渦巻き、集まり――


「ああああっ!」


 コガさんの手から刃と化した血が飛び出す。

 それは、すぐそばまで近づいていたコボルドの首元へと命中する。


 刃がコボルドの首を切り裂く。


「ガハッ!?」


 コボルドは喉を押さえ、力なく膝をつく。

 その傷口から噴水のように血がほとばしり出る。


 返り血を浴びたコガさんは目を見開き、呆然と座り込んでいる。


「ああっ……」

「はやく飲め! 消えちまうぞー!」


 オカダが声をかけると、コガさんはコボルドに飛びかかる。


「そ、そうだ……血ィ……! お、おいしいっ……!」


 倒れたコボルドに覆いかぶさり、血をすする。


 食事だ。

 吸血鬼の本能とはこういうことか!


 戦いの中で、捕食者としての本能が目覚める。

 誰に教わるでもなく、戦い方がわかるのだ。


 血を刃物に変えるスキルなんて、さっきまでなかったはずだ。

 彼女が隠していたとは考えにくい。

 必要に応じて手に入ったというのか。



 少しして、コボルドが塵になって消える。

 後には魔石が転がっている。


 コガさんは名残惜しそうに、地面を手でまさぐっている。

 こぼれた血も塵になって消えていく。


「はあ……はあ……。ああ、消えちゃった。もっと……!」


 立ち上がったコガさんが口元をぬぐう。

 その口元には鋭い牙が伸びている。


 顔は青白く、返り血に染まっている。

 血の汚れが塵となって風に流されていく。


 その下に現れた顔はさっきまでの自信のないコガさんとは違う。


「これでコガちゃんも一人前ってこった! な。大丈夫だったろ。ゼンゾウ?」

「ヒヤヒヤしたわ! こういう手順なら、もうちょい先に説明しといてくれよ」


 説明が足りないんだよな、みんな!


 コガさんが俺のほうを振り向く。

 らんらんと輝く赤い瞳を向け、彼女が言う。


「ああ! もっと……血を!」


 その瞳から感情は読み取れない。

 悪意はない。敵意もない。

 もっとなにか原始的な衝動。


 欲求……ごちそうを前にしたような飢え。

 俺を見て、そう感じているのだ。



 コガさんが息を荒げ、なにかを言おうとし――


 オカダが手を叩きながら前に出る。


「へいへい! コガちゃん! ゼンゾウを食うなよ!?」

「あ……。ご、ごめんなさいゼンゾウさん!」


 はっとした様子でコガさんが俺に頭を下げる。


「いや。気にしないでくれ。すまないが、俺の血はやれない。もちろん他の人間も食べちゃダメだ」

「人間を食うのはナシって約束で俺たちは生かされてるんだぞ。忘れんなよ?」


 オカダは軽い様子で言う。

 だがその目は厳しい。


 もし彼女が俺を襲おうとしたら、オカダが処理する手はずになっている。

 移動中に逃げようとした場合も同じだ。



 コガさんがしどろもどろに弁明する。


「は、はい。忘れてたわけじゃなくて……気づかなくて……!」

「まあ、血に狂うのはよくあることだ。だから、もし人間を襲いそうになったら、俺がぶっ飛ばしてでも止めてやるから心配すんな!」


 コガさんがぎょっとした顔で身を引く。


「は、はい。ぶっ飛ばす、んですね……」

「俺がそうなったらぶっ飛ばしてくれ!」


「そんな役目はやりたくないから、二人とも我慢してくれよな。ほんとに頼むぞ」



 オカダは吸血衝動への耐性も持っている。

 飢えには強い。


 なによりオカダは冷徹なカミヤの配下として、生き延びてきた。

 機を見るしたたかさがある。


 だがコガさんは違う。

 吸血鬼になったばかりで不安定。

 能力もまだ未確定だ。

 振れ幅が大きすぎる。


 面談を重ねた御庭でさえ、安全だとは判断できなかった。


 だからこうして現場での行動を見ている。

 たしかに、さっきの彼女の変わり様は劇的だった。


 これが血を前にした吸血鬼というものか。

 オカダが飄々(ひょうひょう)としているので、あまり意識していなかった。


 考えてみれば、他の吸血鬼はもっと貪欲で、刹那的だった。

 人間を人間と思わないような高慢な生き物。



「はい……落ち着きました。でも、これが私の力……。吸血鬼の力なんですね!」


 そう言う彼女の口元は笑うようにつり上がっていた。

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― 新着の感想 ―
ひょっとして【操血】スキル、生えたのかな? 自分の、若しくは他人の血を操ることができるスキル。 【水忍法】【水魔法】の操作系技能に近い運用ができるタイプとか。(血を鞭やロープ状にして敵を縛る、血で刃物…
[一言] 成人の儀式ならぬ覚醒の儀式ってとこかな今回は 追い込まれて本領を発揮する少年漫画の主人公みたいなコガさん
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