デビュー戦は見極めで!?
まだコガさんは血液パックの件がバレたことを知らない。
その件で注意を与えてはいない。
今回の任務も、悪性ダンジョンを潰すだけだと伝えている。
現場に出て、どう行動するかを見極めるのだ。
そうすれば本心がわかる。
コガさんを疑っているとは言わない。
知られると身構えてしまうからだ。
移動中に逃げようとしたらアウト。
俺やサタケさんを襲ってもアウト。
ここまではクリアしている。
事前に知らせては意味がない。
本心を隠して、機会が来るまで潜伏されると困る。
御庭の所感ではコガさんはグレー。
メンバーの安全を考えて、疑わしい要素は残せないという。
俺はコガさんの疑いを晴らしたい。
彼女に害意はないと……安全だと保証してあげたい。
コガさんを試すことはオカダも知っている。
いわば協力者だ。
だから俺一人でオカダとコガさん両方を敵に回す可能性はない。
オカダが裏切る可能性は低い。
そう御庭は判断した。
俺もそう信じている。
オカダはチャラいが、マヌケではない。
生き延びるという点では、誰より賢く立ち回れる。
冷酷なカミヤの下でも生き延びたのだから。
オカダがコガさんの肩をバンバンと叩く。
「まあ、吸血鬼もそう悪くないって! 人間を食わなきゃオーケーオーケー! ボスとの約束を守っときゃいいんだよ!」
さらりと念押しするオカダ。
コガさんは弱々しく首を振る。
「も、もちろんそんなことしません! そもそも私はなにもできませんし……」
何もできない!?
いや、吸血鬼の職業を持っているし、スキルもあるだろ?
レベルやステータスもあるはずた。
なにもできないことはない。
彼女はスキルを隠しているな。
公儀隠密のスタッフにかけた、精神に作用するなにか。
【洗脳】とか【魅了】のようなスキルを持っている。
俺たちをだますために、能力を隠している?
疑いの目でみれば、そうなる。
でもそうとは限らない。
まずは、信じる前提で考えてみよう。
スキル欄を見たのは今日が初めて。
そこに【魅了】のようなスキルがあったら?
それを言えるだろうか?
リンも【魅力】を隠していたし、使うことに後ろめたさを感じていた。
俺だって自分のスキルを人に話したりしない。
見せるのは一部だけ。全部じゃない。
能力を隠すのは当然だ。
このことだけで、彼女を咎めることはできない。
俺はコガさんにたずねる。
「それで、コガさんはどうやって戦うんだ?」
「私、戦うのはニガテなんです。訓練を受けたけど、ぜんぜんダメで……」
彼女は公儀隠密で戦闘の訓練を受けている。
ステータスが発揮されない外とはいえ、彼女は運動や戦闘が得意ではない。
そもそも戦う意志が弱く、積極性がないと言うのが公儀隠密の見解だ。
でもここなら。
ダンジョンでなら、どうだ?
「ステータスは見たんだろ? なら、もうスキルは取ったのか?」
「あ、スキルはありました! 【身体美化】とかそういうのしかなくて……」
「【身体美化】? 聞いたことがないスキルだな」
オカダが言う。
「それは俺も持ってるぜ! 二段階だ!」
「へえ? オカダもルックスはいいよな」
チャラいお兄ちゃんって感じだけど。
オカダがにやりと笑う。
「だろー? ま、俺はもともと顔はいいけど」
「ちょっと腹立つなお前……」
顔や体が完全な別物に変わるわけじゃないようだ。
ダンジョンから出ても見た目に変化はない。
スキルを取ったときに肉体が永続的に変わるのかな?
そういう仕組みなら、スキルが無効化される外でも効果が残るわけだ。
コガさんはやや明るい声で言う。
「私はその……四段階です。おかげで、キレイになれたんです!」
「スキルレベル四!? すごいな!」
見た目につぎ込みすぎだろ!?
いや、ステータスウィンドウからスキルを選んだわけじゃないのか。
オカダが言う。
「それだけ強い願いだったんだろ。俺の場合は回復力だったし」
願望を反映して勝手に取得された感じか。
「これだけは……吸血鬼になってよかったかなあ……」
「そーだろ? マスクで隠してないで、かわいい顔をみせてくれよ!」
うわあ……。
さすが陽キャ!
そういうことを平然と言ってのける!
「えっ……。あ、あはは。そんなこと言われたことなくて……うう。恥ずかしいです」
「ほらほら! マスクいただきー!」
オカダがコガさんのマスクを取る。
うむ……たしかに美人!
どこか弱々しく、はかなげな感じ。
コガさんは恥ずかしそうに笑う。
「や、やめてくださいよ。もう……」
お、この子もこんな風に笑えるんだな。
ていうかオカダはグイグイ行くなあ。
自然に口説きよる!
にしても、見た目のために四段階もスキルを取っているのか。
偏ったスキル構成だ。
戦闘が得意でないというのもうなずける。
でもそれが彼女の望みなんだから、叶ってよかった。
だけど戦闘面では役に立たないかな?
【モデル】の【美肌】のような効果があるといいけど。
名称から想像するに、ないんじゃないかな……。
結局、見た目の話しかしていない。
気になるのは戦闘に使えるスキルだ。
「それでコガさん。自分のスキルを明かすのは抵抗があるかもしれないが、今後のために聞いておきたい。他にはどんなスキルを持っているんだ?」
さて。
彼女はどう答えるだろう?
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