六階層攻略! 火消男現る!?
さて、六階層へ到着した。
迷宮階層だ。
軽く偵察してあるとはいえ、新階層だ。
慎重に行く。
出発前に時間調整してから来ている。
今回のダンジョン攻略中にもう一度、自律分身の発動を試したいからだ。
前回出してから6時間以上経っている。
クールダウン時間を試す意味では今、使ってしまいたい。
――でも使わない。
まずは、じっくり隠れながら進むつもりだからだ。
自律分身はスキルが使えない。
つまり【隠密】がない。
だから、分身と一緒に行動するとかえって目立ってしまう。
頭数が増えることが有利に働くとは限らないのだ。
今回は【隠密】が優先だ。【自律分身の術】は、戦闘が始まる直前に試すことにする。
「よし、到着。階段付近に敵影なし――」
石造りの通路は、松明で照らされていて明るい。
この階層の問題点、その1。
――明るさだ。
「この明るいのが問題だ。そして光源は松明……」
壁に松明を差し込む台がある。
そこに、燃え上がった木の棒――松明が差し込んである。
見る限りは新品の松明で、燃え尽きる様子はない。
俺は、松明を手でつかんで、台から取り外す。
特に抵抗なく取り外すことができた。
外しただけでは、火は消えない。
塵になって消えることはなく、持ち運べるようだ。
「この松明……三階層で欲しかったぜ!」
三階層は暗さで苦労したんだ。
そこにこそ欲しかったこの仕掛け!
今の俺には【暗視】があるから、明かりは要らない。
むしろ隠れ潜む邪魔をする、今となってはいらないモノだ。
暗がりで暗躍したいのだ。
明るさが【隠密】の効果を下げてしまう。
「ということで、ていっ」
で、対策はシンプル。
火を消してしまえばいいのだ!
松明を手に取って振る。
――だが、火は消えない。
足元に投げ捨てる。
――だが、火は消えない。
水を振りかける。
――火が消え、周囲が暗くなる。
「――これでよし。火を消すのも一苦労だな。ゲームならどういうわけかすぐ消せるんだけど、どうやってんだろうね」
この松明には松脂が塗ってある。
ちょっと振ったくらいでは消えない。
振ったら消えるんじゃ、風の日には照明として使えない。
当然だが、水をかければ消える。
でも……水は有限だ。
「というわけで! 困ったときの忍具作成!」
火を消すための道具を作る!
前回の偵察したとき、既に方策は考えてある。
【忍具作成】で作るのは――火消し壺だ。
キャンプやバーベキューのとき炭を消す壺だ。
ふたを閉めると空気が遮断されて、火が消えるしくみ。
空気がなければ燃焼は止まる。
水をかけなくても、松明の火を消せるってワケだ。
材料は釘と、ここに来るまでに手に入れた魔石だ。
ちなみにホームセンターなどでも売っている。
俺の場合は作ってしまえばいい。
――【忍具作成】で火消し壺を作成!
出来上がった火消し壺を片手に下げる。
シンプルな金属製の壺だ。フタがぱかっと開く。
片手に下げて持ち歩くつもりだ。
腰袋のように身に着けることも考えたが……熱いからね。
戦闘になれば床に置けばいい。
「……前に来た時、松明補充係を見つけてやろうと思ったが……松明回収係なら見つかったな。――俺だ!」
歩きながら、壁の松明をひとつずつ消して歩く。
なんという地味な作業。
だがこの作業のおかげで、通り過ぎた後には暗闇が広がっている。
有利に戦える状況を作っておくのも大切だ。
「お、ゴブリンがいる。数は4匹。こちらには気づいていない……」
俺は暗闇の中で足を止める。
当然、前方の通路では松明が赤々と燃えている。
こちらは暗く、ゴブリン側は明るい。
ゴブリンも夜目が利くが、向こうからこちらは見えないだろう。
明るい場所から暗い場所は見えにくくなる。
俺は暗がりの中、壁沿いに身を寄せて姿勢を低くする。
そのまま、ゴブリンを観察する。
先頭のゴブリンは武器を持たず、軽装だ。
粗末な革のベストを身にまとっている。
きょろきょろと落ち着きなく、視線をさまよわせている。
その後ろにいるゴブリンはナイフを腰に下げている。
ぼんやりと、前のゴブリンについて歩いている。
三匹目のゴブリンは盾を持っている。
木製の四角形の盾だ。
といっても作りはお粗末。
まるで板切れを何枚かクギで打ち付けただけのようだ。
その後ろにいるのはローブで顔を隠したゴブリンだ。
節くれだった杖を持っている。
盾持ちのゴブリンに守られるような位置にいる。
このゴブリン達……この見た目、装備。
――まるで役割があるみたいだ。
俺が想像したのはそれぞれ、斥候、ナイフ使い、盾持ち、魔法使いといった役割だ。
職業とも言える。
俺が忍者であるように、このゴブリンも職業を持っているのかもしれない。
先頭のゴブリン――斥候ゴブリンがこちらに注目している。
暗がりにいる俺が見えるのか、何か音でも聞こえたのか。
他のゴブリンはこちらに気づいていないようだ。
足を止めた斥候に不満げな声をあげている。
……この斥候ゴブリンだけが俺に気づいている。
もしかすると感覚が鋭いか、何かの探知スキルを持っているのか?
目をすぼめたり、耳をそばだてたり、鼻をひくつかせたりしている。
そして、俺の潜むあたりに顔を向ける。
――む、これはマズイか。
「ギギィっ! ギギャァ!」
斥候ゴブリンが、俺を指さして叫ぶ。
他のゴブリン達も身構えた。
もう、戦闘は避けられない!
だが、これでわかった。
やはり職業か、役割を持っている。
斥候タイプのゴブリンが探知能力を持っている。
「見つかったんならしょうがないな! ――分身の術! 自律分身の術!」
俺は分身を生み出し、ナタを投げ渡す。
こちらは普通の分身だ。
【自律分身の術】も――現れた!
「――よう、俺。やっぱり再使用可能時間は6時間前後だったな!」
俺は用意しておいた装備を自律分身に渡す。
「んじゃ、いくぜ! 戦闘開始だ!」
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