竪穴と暗渠と積み上がる岩!
水路の行き止まりの空間。
平らな岩に上陸した俺たち。
この足場は充分に広く、安定している。
「流されると困るから、ボートを引き上げておこう」
上を見上げる。
天井は高い。
いや、天井という言葉では表せないか。
上へ向かう筒状の空洞である。
斜めに続く竪穴と呼べばいいかな?
「やっと陸に戻れたな」
俺はゴムボートをチェックしながら言う。
穴は開いていない。まだ使えそうだ。
これなら、仮に引き返すことになっても問題ないだろう。
俺の言葉にリンはほっとしたようにうなずく。
「はい。これで安心ですー」
「あたしは船も楽しかったっス!」
落ち着いて周囲を見回す。
「来たルート以外の道はないな。となると、この岩を登ってみるか、引き返すか……」
「天井が見えませんねー」
俺は上を見上げる。
胸にさげたヘッドライトの明かりと【暗視】で視界は確保できている。
足場にしている岩場から、岩が積み重なっている。
真上ではなく斜めに続いているので、一番上までは見通せない。
蛾が飛んでいる。
はっきりは見えないが上に行くほど多いようだ。
どこかから入り込んだのか。
この空間で湧いたのか。
蛾は俺たちにむかってくるわけではないが、飛んでいるだけで鱗粉をまき散らしている。
おかげでフルフェイスヘルメットが外せない。
トウコが目の前の岩を蹴る。
岩の塊はびくともしない。
「ていっ! この岩は登れそうっス!」
「道とは呼べないが、上に続く通路と考えればいいのか?」
「たくさん積み重なっているので、なんとか登れるかなぁ?」
階段でもスロープでもない。
足場となるのは、積み重なった岩である。
一つ一つの岩はかなり大きく、俺の背丈を超えるものもある。
足がかりはあるので、頑張れば登れそうだ。
俺は【壁走りの術】があるから平坦な道と変わらない。
だけど、リンやトウコにとっては大変だろう。
「ゲームだったら登れない段差っス!」
「協力しないとな」
ゲーマーにしかわからん例え!
二人プレイなら、片方が足場になったり上から引き上げるくらいの段差だ。
「普通にたいへんそうです……」
リンの声には不安が混じっている。
「もちろん手を貸すから心配するな。俺にとって壁は床みたいなもんだ」
そう! 【壁走りの術】ならね!
トウコは妙な手つきで指をわきわきしている。
「あたしは下からリン姉を押すっス! 協力プレイっス!」
「じゃあ、最後に残ったトウコを置いて先に進むということで!」
「いやいやっ! 最後に店長があたしの尻を押し上げ……いや、突き上げるっス!」
わざわざ言い直さんでよろしい。
「登る前に、まずはこのあたりを探索しよう。横穴がないか、宝箱がないか調べてくれ」
「はーい」
せっかく苦労してきたんだから、なにかあってほしい。
なにもないなら二度と来ないような場所だから、今しっかり探索しないとね。
「じゃ、あたしは蛾を倒しとくっス!」
トウコが上向きに銃をぶっ放す。
振ってきた魔石が床にぶつかって高い音を立てる。
「あー! 魔石がっ! これじゃ拾えないっス!」
トウコは魔石を拾おうとしている。
岩のスキマにでも落ちたかな?
「ムリして拾わなくてもいいぞ。ちゃんと足元を見てろ!」
「うー。なんか腹立つっス」
気持ちはわかる。
だが、蛾は数が多いしそれほど魔石の価値も高くない。
気にしないことだ。
「俺は水中を探してくる。すぐ戻るから心配しないでくれ」
「はーい」
俺は水を押しのけて足場の周辺を探る。
深さは大したことないようだ。
ふむ。水は一定方向に流れている。
動きからして、水面下に水の流れる先があるようだ。
水を押しのけながら、慎重に探す。
そして壁面に穴を見つけた。
排水口というか暗渠というか……。
水中洞窟の入口だろうか。
水量の多い水路から流れ込んできた水が抜けていく先。
ごうごうと水を吸い込んでいく。
うっかり入ったら、まず戻れない。
これ、即死トラップ的な地形だろ!?
吸い込まれたらアウトな気がする!
近寄るのはやめておこう。
見えてる地雷には触らないのが一番!
この先に宝箱があるとしても、死ぬリスクは冒せない。
調べるのはここまで!
俺は水を滴らせながら岩棚に登る。
「ふう。水中に隠し宝箱はなかったぞー」
「おかえりなさいー! ゼンジさん。ちょっと来てくださーい!」
「お? どうした?」
手を振っているリンのそばへと近寄る。
「ここに宝箱がありましたー!」
「おっ! ナイスだ!」
目当ての品が見つかったぜ!




