水路は続くよどこまでも!? そうなっては困る!
クモの巣を突破した俺たちは、そのまま流れに乗って進んでいる。
水路の幅が広くなり、ボートの速度が落ちてきた。
<経験が一定値に達しました。レベルが上がりました!>
「お! レベル二十八になったぞ!」
火鳥のときは上がらなかった。
そのあたりの蓄積もあって上がった感じだな。
「おめでとうございます! 私はまだですねー」
リンはもうすぐかな?
「おめっス! ちな、あたしはこないだ上がってたっス」
「なら言えよ!」
トウコは知らぬ間に上がってた!?
いつもなら自慢げに言うくせに……。
トウコはぺろりと舌を出す。
「いやー。忘れてたっス!」
「まあいいか。帰ったら振るスキルを考えようか」
今急いで取得する必要はない。
拠点でじっくり考えたい。
「そっスねー」
「帰るまでには私も上がるといいなー」
俺は前方にヘッドライトの明かりを向ける。
「だんだん流れが緩くなってきたな。そろそろ終点か?」
「終点とかあるんスか?」
水路の場合、行き止まりはどうなるんだ?
いきなりダンジョンの外に排出されたりしないよな?
どんどん天井が狭くなって、行き場を失ったり……。
「どうだろうな。これまでのことを思えば、俺のダンジョンの広さには限界がある」
「リン姉のダンジョンより狭いっスね」
草原ダンジョンには壁がない。
屋外型のダンジョンにも終点はあるのかな?
「そうすると、この先は行き止まりになるんでしょうか?」
「そうだと思う。もし水路がどこまでも続くなら、帰るのが面倒だ……」
来た分だけ戻らなきゃならない。
急流のぼりである。
トウコが迷子に気づいた子供のような顔で言う。
「うえぇ!? どんどん流されちゃうんスかっ!? 終わったーっ!」
「だから、そうはならないって!」
俺のダンジョンはそれほど広くない。
少なくともこれまでは、すごく広い階層というのはなかった。
「トウコちゃん。ゼンジさんがなんとかしてくれるから大丈夫だよー」
リンは当たり前のように言う。
その表情には絶大な信頼が見て取れる。
いや……帰れるけど。
ちゃんと二人を安全に送り届けるけど!
期待が重い!
ありがたいことだけど!
期待には応えねばなるまい!
俺は心配など何もない風を装う。
「……おう。もちろんちゃんと帰れるぞ! 【水噴射】で水路を遡ればいいだけだ!」
それは魔力と体力を振り絞る必死の作業になる!
産卵前の鮭みたいに、命がけの川のぼりだよ!
トウコがほっとしたように言う。
「なーんだ! なら安心っス!」
「ねー」
しかし、その心配はなかった。
行き止まりだ。
ほとんど水の流れがない広い空間である。
地底湖の小規模版といったところ。
ヒカリゴケや発光キノコがあるので、かなりの高さがあることがわかる。
天井は高く、最上部は暗すぎて見えない。
ヘッドライトの明かりに、チラチラと光る粉が見える。
「むっ! これは蛾の鱗粉だぞ! 口を覆え!」
俺はマフラーで口元を覆う。
二人もそれにならう。
「はいっ!」
「げほげほっ! 吸いこんだっス!」
鞄から蛾対策のフルフェイスヘルメットを取り出す。
二人にそれを渡し、自分もかぶる。
鉢金ヘッドライトは首にぶら下げておく。
「吸い込んだならリカバリーポーションを飲んでおけよ!」
「あー。あたしはしびれてもうダメっス! リン姉……口移しでっ」
トウコがヘラヘラした顔で言う。
「元気じゃねーか! 痺れてるのは理性だけだろ!」
リンはトウコの演技をスルーして、フタを開けた小瓶を手渡す。
「はい。トウコちゃん!」
「ちぇー。バレたっス!」
トウコはそう言うとリカバリーポーションを飲み干す。
俺はほとんど吸い込んでいない。
少し目がしばしばするくらいだから、ポーションは温存しよう。
「あっ! ゼンジさん、トウコちゃん。あそこに登れそうですよ!」
リンが指さした先には大きな岩がある。
船をつければ上に登れそうだ。
平らになっていて、足場としては悪くなさそうだ。
「ちょっと寄せてみよう。魔力探知で警戒してくれ。トウコは戦闘準備な」
「はーい。異常ありませーん」
「リョーカイっス!」
足場の先に、元のルートへ戻れる通路があるかもしれない。
あるいは次の十五階層へ繋がってくれていてもいい。
そうなれば新パターンだ。
これまで俺のダンジョンには階段は一か所しかなかった。
お宝がありそうな雰囲気もある。
いつもとは少し違う雰囲気に、少しワクワクしてきた俺であった。
ご意見ご感想お気軽に! 「いいね」も励みになります!




