クモ狩りはラフティングで!
船に乗り込み激流をくだる。
水路は狭く、流れは速い。
ごつごつした壁面にぶつからないように慎重に船を動かす。
水量が多く、勢いが強い。
【操水】で流れを操り、勢いを弱めて進む。
俺たちは暗い洞窟をヘッドライトの明かりを頼りに進んで行く。
光の届かない先からごうごうと水音が聞こえてくる。
「ゆ、揺れますねー!」
「でも思ったより平気っス!」
「なるべく速度は落とすけど、舌を噛まないようにしろよ!」
リンの声が小さく震える。
「は、はひっ」
リンは恐怖に顔を歪めながらも、必死にボートの端を掴んでいる。
渦に乗り上げ、突きあげられるように船が弾む。
「だいじょー……うっ!」
噛んだな!
だから気をつけろって!
水路は曲がりくねっている。
加速のついたカーブでは【水噴射】を併用してブレーキをかける。
壁にぶち当たったり、勢いで転覆してはたまらない。
補強したゴムボートは、少し岩肌で擦れたくらいなら沈まないだろうが、過信は禁物。
安全運転でいきたい。
とはいえ、激流はそれを許してくれない!
うねる急流が、ボートを大きく揺らす。
水しぶきが舞い上がり、ヘッドライトの光を受けてキラキラと輝く。
すでに俺たちはずぶ濡れである。
小さな滝のような段差が見えた!
「滝だ! しっかりつかまれ!」
まもなくボートが浮き上がり、次の瞬間には落下していく。
一瞬の無重力感。そして着水。
「ひゃっほう! 楽しくなってきたっス!」
「ううっ……!」
トウコはショットガンを掲げて楽しそうにしている。
リンは涙目で俺を振り返っている。
ボートは揺れたり跳ねたりしながらも力強く前進していく。
「そろそろクモがいたあたりだ! 糸に注意しろ!」
「あっ! キラッとしたっス!」
トウコが前方を指し示す。
ヘッドライトの光を受けて何かが輝いている。
おそらく糸についた水滴だ。
水面よりやや上に張り巡らされている!
俺たちの首くらいの高さである!
このままいけば巣に突っ込む!
前回は刀やクナイが糸にからめとられて苦戦した。
だが今回は違う!
「――【水刃】っ!」
水の刃が水面を走り、クモの糸を切断する。
そこをボートは突っ切っていく。
トウコが拳を突き上げる。
「店長、ナイスっ!」
俺は【操水】で減速しながら言う。
「トウコ、クモを探せ! リン! 絡みそうな糸を焼き切れ!」
「は、はひーっ!」
「サーチアンドデストロイっス!」
低い位置に張られた糸をリンが【火魔法】で焼き払う。
トウコは上方へ銃を向け、きょろきょろと敵を探す。
リンが放ったファイアボールに照らされ、暗がりにクモの姿が浮かび上がる。
「いたぞ! 斜め上!」
俺の声に反応したトウコが短銃身ショットガンをクモに向ける。
即座に射撃。
「ピアスショット! ラストショットっ!」
二連射。
銃声が洞窟内に反響する。
狙いは大雑把。
だがそれでいい。
揺れる船の上で精密射撃などできないからな。
ばらまかれた散弾がクモの体を捉え、体液が飛び散る。
だが致命傷ではない!
クモは巣の上をすばやく移動していく。
「逃げるぞ! 狙え!」
「あいあいさーっ!」
トウコは撃ち終えた銃を放り捨て、予備の銃を抜く。
揺れる船上では弾を込めにくい。
先に作っておいた銃に持ち替えたのだ。
激流に船が揺れる。
クモは糸から糸へ飛び移り、目まぐるしく位置を替える。
「ね、狙えませんっ!」
「外れたっス!」
壁面に散弾が着弾して火花を上げる。
当たらないか……!
俺は急流の轟音に負けじと声を張り上げる。
「なんとか船を止める! 構えろ!」
術に力を込め、急流に抗う。
くうっ!
術のコストが大きい!
魔力が激しく消費されていく。
だが、ここが踏ん張りどころだ!
船を安定させ、敵を狙えるチャンスを作るっ!
荒ぶる急流をねじ伏せ、揺れを止める!
「今だ! 撃てー!」
「ファイア……ラーンスッ!」
「チャージショットーっ!」
炎の槍と散弾が闇を切り裂く。
蜘蛛は天井と壁のスキマへ逃れようとしている。
だが体を隠すその前に、魔法と銃弾が着弾する。
バラバラになったクモが飛び散りながら、体を燃え上がらせる。
「わあ! やりましたねー!」
「うへーっ! キモい花火っス!」
暗い洞窟に落下していくクモの体はさながら花火のようだ。
燃えるバラバラ死体だけど!
クモの残骸は落下しながら塵になって消える。
俺は落ちて来た魔石を引き寄せ、空中でキャッチする。
「よし! 突破できたな!」
一人では難しいことも、三人なら簡単だ。
「はいっ! よかったですー!」
「あたしたちにかかれば余裕っスね!」
障害であるクモは取り除いた!
これで水路の先がどうなっているのか確認できるぞ!
ご意見ご感想お気軽に! 「いいね」も励みになります!




