鳥の巣はお宝で!
「たぁまぁごっ! たぁまぁごっ! さぁ、リン姉もご一緒に!」
「あっ、うん。た、ま、ごー」
やらんでよろしい!
俺は樹上で内心ツッコむ。
リンとトウコの期待の眼差しを受けながら、枝を切ったり試行錯誤して、木の上を目指す。
木の天辺に近づいてきた。
下でトウコが叫んでいる。
「どうっスか店長ぉー!」
下からでは巣の底や側面は見えるが、巣の中は見えない。
トゲに気をつけて、なんとか木の上に上半身を出す。
「やはり鳥の巣があるぞ! もうちょいで届く!」
小枝や草を寄せ集めて作られた巣だ。
もう目の前に見えている。
巣の中も見えた!
「タマゴはありますかー?」
「あるっ! 大きいぞ!」
巣の中にはタマゴが一つ。
ニワトリの卵に比べるとずっと大きい。
野球のボール……いや、ソフトボールくらいか?
卵は楕円形なので比較はしにくいが……。
なんとか片手で持てそうなサイズだ。
だがギリギリ手が届かない!
今は枝の間から上半身を出していて、なんとか通れる程度のスキマしかない。
跳び上がることはできない。
天辺の枝の上に着地するのは無理そうだし、トゲがひっかかりそうだ。
不安定な枝の上に分身は出せない。
空中や水上、足場の悪い場所には出せないのだ。
もし出せても、重さで枝がたわむだろう。
分銅で引っ掛けてみるか?
いや……卵が割れては元も子もない。
【操水】を使えば……。
いや、もっと簡単にできる術があった!
地味に便利な術!
「――【引き寄せの術】! よし。取れたぞ!」
「ナイスっス!」
「さすがです。ゼンジさん!」
俺は慎重に卵を腰袋に入れ、木を降りる。
「おつかれさまですー。あ、葉っぱがついてます!」
そう言うとリンは俺の服についた葉を指でつまみ取る。
「店長! はやくタマゴっ!」
「ほら、これだ。ダチョウの卵みたいな感じか?」
デカいらしい、というくらいのふわっとした情報しか知らないが。
それよりは小さいのかな?
「モンスターも卵を産むんでしょうかー?」
「それは俺も気になっているんだ。これまで子供のモンスターなんて見たことないだろ?」
「子供ゴブリンとか子供ゾンビとか、見たことないっス!」
「ゴブリンはさておき、ゾンビは見たくないな……」
「シカさんも小さくてもバンビではないですよねー」
「だからこの卵は不思議な存在だと思うんだよ!」
わかるだろ?
と言う顔で俺はトウコとリンを見る。
リンはよくわからないといった表情。
トウコがいい笑顔で親指を立てる。
「つまり、すごくおいしいんスね!」
「ちがうわ! ファンタジーのお約束だよ! わかれよ!?」
トウコがひらめいた顔で言う。
「卵のオヤクソク……あっ! マヨネーズを作るんスね!」
「違うわ! 孵化! インプリンティング! テイムだよ!」
「あー! ドラゴンとかフェンリルとか仲間にするやつ!」
「ふ化というと……卵を温めるんですか? 鳥さんははじめて見たものを親だと思うんですよね?」
「そうそう。だいたいあってる。ファンタジーのお約束として、モンスターを育てるとなついて仲間になるんだよ」
「でもそんな都合いいことあるんスかね?」
トウコは訝しむような顔だ。
俺もうなずく。
「そこよ! 俺たちのダンジョンは渋いから、こういうお約束は通じない気がするんだよな……」
ボスの討伐報酬でもらえるスキルは強力だけど、チート級ではない。
環境が一変するようなスキルは手に入らない。
ダンジョンを攻略していれば誰でももらえる。
平等な機会があるのだ。
トウコがよだれを拭いながら言う。
「んじゃ、食べちゃっていいっスか? すごくおいしそうっス!」
「生のままで美味しそうに感じるのか? てことは【捕食】対象の可能性もあるのか。ふーむ」
ボスワニの尻尾肉を食べたときは【身体強化・体力】が身についた。
【捕食】でスキルをゲットできる可能性もある。
身につくとしたら【飛行】とか【キック】。あるいは【防火】だろうか?
そっちの線も捨てがたいなあ……。
悩むぜ!
サイズの目安。
野球のボール:72mm。ソフトボール:91mm。
ダチョウの卵:160mm。現存する生物で最大の卵らしい。




