ボスエリアは鳥の巣で!
【サポートシステム】が言う。
<エリアの境界線を越えました>
「第十エリアだな」
「はい!」
「簡単に来れたっスね!」
ここまで大した敵には会わなかった。
シカやスライムが少々いたくらいだ。
水場を避けたのでワニとは戦っていない。
空に鳥は居ないので消化試合みたいなものだ。
第十エリアもこれまでと変わらないサバンナ風の草原が続いている。
目に見えて違うのは、目の前の大きな木だ。
アカシアの木なのだが、これまでで一番大きい。
「大きな木ですねー。お花も咲いていますよ!」
リンはアカシアの花を指差す。
まばらに花が咲いている。あとで摘み取ろう。
トウコがきょろきょろしながら言う。
「ここがボス戦エリアだったんスね!」
「たぶん、そうだろ」
今、ボスはいない。
モンスターの姿は見当たらない。
天の声が響く――
<第十エリアへ到達しました。管理者権限を獲得しました!>
<管理コンソールが設置されました!>
リンがびくっと震える。
「あっ!? なにか来ました!」
「お、ちゃんとリンに権限がついたみたいだな。妙な感覚が来るんだよ」
トウコがにやにやしながら言う。
「エクスタシーっスね!」
「違うわ!」
スキルを取得したときの感覚に近いものだ。
力を得た実感というか……。
普通の生活で感じるものではないから、説明しにくい。
気持ちいいとか、嬉しいとか、そういうのとは違う。
感覚でも感情でもない。
実感とでも言うか。
まあ、そんなものだ。
リンが言う。
「管理コンソールはダンジョンの入口にあるんでしょうかー?」
「そうじゃないか? あとは……帰還用のモノリスも出てるかもしれん」
俺のダンジョンの場合はボス部屋の奥にある。
俺たちは周囲を探す。
木の裏側へ回り込んだトウコが声を上げる。
「あったっス! こっちこっち!」
「おお。俺のダンジョンと同じか」
「ゼンジさんとおんなじ、モノリスですねー!」
黒いモノリスだ。
光を反射しない板は不思議な存在感を醸している。
明るい草原ダンジョンの日差しの下で見るとなお不思議だ。
遠近感が狂うというか……引き込まれるような感覚を覚える。
「俺のダンジョンと同じなら、これは帰還用だな」
「ファストトラベルっス!」
「では、いったん帰りますかー?」
トウコがさっと手をあげる。
「あたしははやくヤキトリ食べたいっス!」
「十一エリアの偵察をするのもいいが……。ま、次回でいいだろう」
帰還モノリスを使えば、ここにはすぐに来られる。
急ぐことはない。
「ゼンジさん。帰る前にアカシアの花を取ってもらえますか?」
「ああ。ニ、三房で足りるか?」
この木はかなり枝ぶりがいい。
ある程度、枝を落とさないと花にたどり着けない。
「せっかくなので、沢山おねがいしまーす!」
「じゃあ、あたしも手伝うっス!」
「手伝うったって……」
幹はトゲだらけだし、枝や花にも小さなトゲがある。
毒があるので、素手で触るとかぶれてしまう。
「もちろんコレでやるんスよ!」
そう言うとトウコは短銃身ショットガンを取り出す。
そして【ピアスショット】をぶっ放した!
バキバキと音をたて、枝が折れて落ちる。
「おお……。ダイナミックな!」
「これで簡単っス!」
俺は落ちた枝から花を斬り落とす。
せっかくだから枝も素材として持ち帰るか。
「ん。リン、どうした?」
リンは目を細めるようにして木を見上げている。
枝を折ると再収穫が遅れることを心配しているのかな?
草原ダンジョンの木や草は、しばらく時間をおかないと再生しない。
「うーん。あのあたりに魔力の反応があるみたいなんですが……」
「木の上ってことか?」
「はい。ギリギリ見えそうで見えないくらい高さなんですー」
「チラリズムっスね!」
「違うだろ。じゃ、ちょっと登ってみるか」
「お願いしますー。動かないので、モンスターさんの反応ではないと思います!」
トゲに気をつけながら木を登る。
邪魔な枝を打ち、なんとか木の上が見えてきた。
木の真上まで登るのは難しそうだ。
傘のように広がった枝は、先端ほど細い。
上に乗ればたわんでしまう。
バッサリ斬り落とせばいいのだが……。
リンが心配そうに呼び掛けてくる。
「どうですかー?」
「うーん。なにかありそうだが……枝か?」
小枝のようなものがアカシアの枝の上にある。
そこらに生えているススキのような草か、葦か。
「あっ! 鳥さんの巣じゃないですかー!?」
「おお……そうかもな!」
「もう一匹いるんスか!?」
巣らしき場所に動きはない。
「いや、気配や音もない。鳥の巣にあるものと言えば――」
「うわぁ。タマゴですねー!」
「おおーっ!? 食べれるヤツっス!」
モンスターも卵を産むんだろうか。
ともあれ、なんとか手に入れたい!
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