草原ダンジョン・第九エリア!
俺たちはほとんど戦闘もなく第八エリアを駆け抜けた。
ワニは鳥を恐れてか、水場から出てこない。
鳥は見える範囲にいないようだが……。
リンが言う。
「第九エリアに入ったみたいです!」
「あんま変わんないけど、やっぱ暑いっスねー」
「ふむ……。休憩しつつ、周囲の様子を見よう」
俺は足を止め、周囲を見回す。
天候は晴れ。相変わらずのサバンナ気候。
第八エリアよりも乾燥している。
水場は少ないが、わずかに存在する。
草は枯草が多く、青々とした草は減っている。
「緑の迷彩だと逆に目立つかもしれないな。いったん脱いで、裏返しにしてくれ」
「はーい。内側の色はこのあたりの草みたいですね!」
「リバーシ陣羽織っスね!」
白と黒の駒を取り合うボードゲームじゃねえよ!
「リバーシブルな! 両面仕立てにしてあるから、場所に応じて柄を変えられるんだ」
最初は二色の陣羽織を作ったが、その後改良したのだ。
エリアによって最適な柄が違う。とはいえ二着持ってくるのはジャマ。
ならまとめてしまえ、というわけ。
これで荷物が軽くなる!
「ここからはもっと慎重に進もう。リンは足元をチェックしてくれ。トウコは空。俺は全体を見る」
「はーい! スライムさんやウサギさんがいないか気をつけますね!」
「鳥が来たら撃ち落としてやるっス!」
「いきなり撃つなよ!? 隠れられそうならやり過ごす。無理なら迎撃だ!」
「りょ!」
足元のスライムはリンが見つける。
トウコは空から鳥が来ないか警戒。
俺は全体に注意を払う。
しばらくはそうやって進む。
数匹のスライムを槍で倒し、安全を確保。
モンスターは襲ってこない。
角鹿はあいかわらず小柄。
ワニの水場があったが、大きく距離を取って迂回。
戦いたくないのでワニは放置である。
俺は前方を指差す。
「おっ! あそこにデカい木があるぞ!」
「立派な木ですねー」
俺たちは木の下までやってきた。
見上げるほどでかい巨木。
アカシアよりずっと大きい。
高さは十五……いや、二十メートルくらいか。
幹も太い。直径は五、六メートル近い。
つるっとした幹でトゲはない。
幹には枝がほとんどなく、一番上にしかない。
木登りは難しそうだ。
トウコがしたり顔で言う。
「あたし知ってるっス! これはバブバブっス!」
「それを言うならバオバブだろ! アフリカやマダガスカルに生えているやつ!」
サバンナや草原についてはネットで調べているので、少し詳しい。
「この木もアカシアみたいに、地球と同じ名前なんでしょうかー?」
「調べてみようぜ! ちょっと枝を切ってくる!」
俺は幹を登っていく。
といっても【壁走りの術】で駆け登るだけ。
一気に上へ上って枝の上に登る。
かなり丈夫な枝だ。
枝には葉が茂っていて、実も成っている。
「実を落とすからキャッチしてくれ!」
「はーい!」
「りょ!」
ひょうたんのような、ココナッツの身のような大きな実がつるでぶら下がっている。
刀を抜いて実を切り離す。
落ちた実をトウコがキャッチする。
「キャッチっス! あだーっ!」
「おいおい、素手で取るな! 服でキャッチするんだよ! いくぞー!」
俺は次の実を切り落とす。
実が落下していく。その下には陣羽織を両手で広げたリンが待っている。
「と、取れましたー!」
「よーし、次々落とすぞ!」
実は取り切れないほど成っている。
枝や葉も少し落とす。
せっかく高いところに登ったし、周囲を確認しよう。
俺は双眼鏡を取り出す。
今のところ鳥の姿はない。急に襲われる心配はないだろう。
ふーむ。
第九エリアもこれまでのエリアと似ている。
まれにアカシアとバオバブに似た木も生えている。
この木は第八エリアにもあったが、近くに寄ったのはこれが初めてだ。
水場は第八エリアより少ない。
ワニがいるのが見て取れる。
数は少なめ。サイズは少し大きいだろうか。
双眼鏡越しだとはっきりとはわからないな。
木を降りる。
「トウコ、手は大丈夫だったか?」
「へーきっス! ちょっと痺れただけっス!」
別にケガはしていないようだ。
ならよかった。
「リン、鑑定してみたか?」
「はい! 実も葉も食べられます!」
「食品鑑定だと食べられるわけだな。物品鑑定だとどうだ?」
「はい。システムさん?」
<名称:バオバブの葉。カテゴリ:素材>
<名称:バオバブの実。カテゴリ:素材>
<名称:バオバブの枝。カテゴリ:素材>
「やっぱバオバブだったっスね!」
「枝も素材か。バオバブはなんにでも使える生活の木だと聞いていたけど、色々使えそうだな!」
リンが胸の前で手を打ち、笑顔を浮かべる。
「とりあえず、食べてみましょう!」
「そうだな。腹ごしらえするか!」
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