大コウモリ先生はいつだって好敵手!
第五階層の大扉前――
今回は【水忍法】の新技をメインにして大コウモリと戦う!
【水噴射】の練習は充分にこなした!
後は強敵に通用するのかを試すだけ!
いつもと同じ戦術なら勝てることはわかっている。
今回は【水忍法】の腕試しだ。
まずは準備だ。
ソロプレイでは万全を期す!
まあ、単独といっても自律分身は出すのだが。
俺は各種丸薬を飲み下していく。
遅効体力回復丸、遅効薬草丸、遅効魔力回復丸である。
アイテムはケチらず使っていく!
俺は自律分身に声をかける。
「よし、魔力は満タン。体調も万全! 気合い入れていくぜ!」
「おう! こっちの装備もばっちりだ!」と自律分身。
自律分身にはコウモリ対策装備を持たせている。
ワイヤー分銅や丸ノコギリの替え刃、紙吹雪玉などなど。
当然、各種ポーションも持ってもらう。
これでバックアップ体制もオーケー!
万一、俺が事故ったら自律分身がいつもの戦術で戦う。
それでも勝てるはずだ。
大扉を抜けてボス部屋を進む。
洞窟には唸るような不気味な音が反響して、獣の唸り声のように響いている。
これは滝が流れ落ちる轟音だ。
水しぶきが霧となって漂い、視界を妨げている。
この滝から流れた水は流れの早い浅い川になっている。
つまり水は豊富にある!
滝の上で黒い影が動く。
翼を羽ばたかせ、巨大コウモリが耳障りな声を上げる。
「キイイィィィィィ!」
「来たな! 今日は練習台になってもらう!」
そう言いながら術を練る!
コウモリが滑空の体勢に入る。
あっという間に距離を詰め、俺へと突っこんでくる!
武器すら抜かずに立っている俺は格好のカモに見えるだろう!
俺は手を向け――
「【水噴射】!」
【操水】で棒状に絞った水がほとばしる!
コウモリは身をひねって躱そうとする。
だがこの距離では避けられない!
避けさせない!
水圧の反動を抑えながら腕を向け、水流を動かす。
さながら巨大な剣を振っているかのようだ。
水流が巨大コウモリの体をかすめる。
羽のあたりで水が弾け、コウモリがバランスを崩す。
「ギィィィ!」
地面に向けて墜落していくコウモリ。
しかし、大きく羽ばたくと体勢を立て直してしまった。
そのまま地面ギリギリを滑空して空中へと戻っていく。
一撃で撃ち落とさせてはくれないらしい!
いいね! それでこそボス!
それでこそライバルだぜ!
再びコウモリが滑空してくる。
広げた翼はまるで俺の命を刈り取ろうとする刃のようだ。
赤い鳥もデカいが、やはりコウモリのほうが大きい!
プレッシャーが半端ないね!
ひりひりとした緊張感に思わず笑みがこぼれる。
俺は再び術の集中に入る。
次も【水噴射】を狙う!
だが同じ手は通じないようだ。
コウモリは用心深く、俺の頭上を旋回している。
近寄らずに俺の背後を取ろうとしているのだ。
俺は巨石を背にして機をうかがう。
この位置なら水路も近い。
絶好の迎撃ポジションだ。
巨石の反対側にコウモリが消える。
次に姿を現したら、水をぶちかます!
耳をすませる。
だが羽ばたく音は聞こえない。
静かに滑空しているのか……?
そろそろ来るはずだ。
俺は巨石から身を乗り出し、腕を構える。
……いない?
「キイイイイィィィィィィィ……――」
耳障りな叫び声。
その音は人間の可聴域を外れていき――
「――まずいぞ! 咆哮だ!」と自律分身が叫ぶ。
コウモリの咆哮は五感を狂わせ、平衡感覚を失わせる。
前に食らってひどい目を見た。
ゆえに、もう食らうつもりはない!
これまでは咆哮を放つ前に激辛目つぶし玉などで対処してきた。
今回は【水忍法】で対処する!
そのためにこの場所――水路の近くに陣取っているのだ!
「わかっている! もう術の仕込みは終えているぜ!」
大きく息を吸って【操水】を発動!
近くの水路から最大量の水を集める。
そして自分の体にまとわせる!
水の壁。いや、水のスーツ!
コウモリの咆哮は耳で聞くと効果を発揮する。
三半規管に働きかけて感覚を狂わせる。
特別な周波数を使っているのだろう。
料理人ゾンビの恐怖の咆哮を、トウコは鼓膜を破ることで防いだ。
リンは炎の壁で音を狂わせ、威力を下げた。俺の分身の壁でも効果はあった。
要は、まともに音を聞かなければいいのだ!
水中では音の伝わり方も変わる。
人間の耳では聞こえない高周波だとしても防げる!
完全に防げなくても、効果は落ちる!
「……ィィィ!」
咆哮が止んだようだ。
だが聞こえないだけかもしれないので水の膜は残したまま待つ。
魔力消費は激しいが……事前に飲んでおいた丸薬のおかげもあって、まだ耐えられる!
コウモリが巨石の陰から飛び出してくる。
いまだっ!
「【水噴射】!」
今度は【操水】で棒状に絞らない放水だ。
水しぶきをハネさせながら噴水のような濁流が手から放たれる!
「ギィッ!」
コウモリの胴体に命中した!
小気味いい水音が弾ける!
はねた水滴が空中に舞い、水晶の光を反射してキラキラと輝く。
コウモリの姿勢がぐらりと揺らぐ。
奴は態勢を立て直そうと羽を動かしている!
「まだだっ! 落ちろっ!」
反動を抑え込みながらコウモリを照準し続ける。
水流は執拗に空中のコウモリを捉え続ける。
「キィ……キィィ!」
たまらずにコウモリは地面に落ち、まるで激突するように着地する。
だがこれくらいでは倒せない!
コウモリはもう、両の羽を脚のように使って立ち上がっている。
地上に降りた今がチャンス!
水流をものともせず、コウモリが猛進してくる!
まだだ。もう少し引きつけて……。
巨体をゆすり、一直線に向かってくる!
よし!
「くらえ! 水刃噴射の術!」
当て続けていた水流に【水刃】を乗せて撃ち出す!
鋭い刃がコウモリの胸を貫く。ばっと血の華が咲く。
「ギィィ!」
だが突進は止まらない。
もはや致命傷のはずだが、コウモリは足を止めない!
最後に俺に体当たりをしかけるつもりだ!
ならば――
俺はわずかに立ち位置を変える。
大きく避ける必要はない。
わざと飛び散らせた水滴が、コウモリの エコーロケーションを狂わせているからだ。
すれ違うようにコウモリが走り去る。
そのまま巨石に激突。
ずずん、と地に倒れ込んだコウモリが塵へ変わる。
「よしっ! 【水忍法】だけでも戦える!」
大コウモリに通用するならバッチリだろう!
これなら鳥だって倒せるはずだ!
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