水底の宝箱を回収せよ!
俺たちは散らばった宝箱を回収している。
「あれ? ワニさんは五匹いたのに、宝箱が三つしかありませんねー」
「あー! 最初に倒した分っス!」
「つまり水の中か……」
俺たちは濁った水たまりを見る。
最初に倒した敵の宝箱はここに沈んでしまった。
トウコが唇をとがらせる。
「もったいないから拾うっス!」
水場に向かうトウコの襟首をつかんで言う。
「ちょい待て! うかつに水に入るな!」
リンが【魔力知覚】で水中の様子を確認している。
「水の中にモンスターさんはいないみたいですー」
「じゃ、ここは水忍者たる俺に任せろ! ――【操水】!」
水忍法使いにとって水中は庭のようなもの!
川底を歩いた時の要領で、水を周囲に押しのける!
「よし! これで水たまりの底が丸見えだぜ!」
水深は浅く、俺の膝くらいまでだ。
このくらいなら川の水を押しのけるよりは簡単!
底はぬかるんだ泥状になっている。
そこに半ば埋もれた宝箱を二つ見つけた。
「あったぞ!」
「おー! ニンポー、地味にすごいっス!」
「カッコいいですね!」
地味かはさておき、カッコいいか?
水場から出て【操水】を解く。
押しのけていた水が戻って、ざばざばと波を立てる。
「中身が濡れてなきゃいいが……」
宝箱は泥で汚れている。
水が入って中身がダメになっていないといいんだが。
振ってみても音はしない。
「とりあえず開けちゃえばいいっス!」
「おう。そうだな!」
順に宝箱を開けていく。
中身は――
「魔石とお肉です! 大丈夫でしたー!」
宝箱の内部に水は入り込んでいない。
きれいな肉と魔石が手に入った。
「へえ。宝箱には気密性があるんだなあ」
小さな発見である!
水中にあっても宝箱の中に水は入らない。
ちなみに開けた宝箱は時間経過で塵になる。
俺のダンジョンの宝箱とはルールが違う。
「あ、そろそろマグナム弾が少ないっス!」
トウコの【弾薬創造】は敵を倒さずとも手の中に弾丸を生み出す。
しかし拳銃弾しか出せない。
敵を倒したときにドロップを弾丸に変える【弾丸調達】は対ワニではオフにしている。
いちおう【銃創造】で新しいマグナム銃を出せば弾丸も補充できる。
これは魔力コストが高いので連発はできない。
リンが俺を見る。
「お肉もたくさん集まったので、そろそろ帰りますか?」
「ああ。でもその前に第八エリアの様子を見てからだな」
「はーい!」
「トウコは拳銃弾に切り替えていけ。素材は充分だから、【弾丸調達】も使ってくれ」
「りょ!」
リンがトウコに笑いかける。
「私の魔力はまだ大丈夫だから交代ね、トウコちゃん!」
「リョーカイっス!」
せっかく奥地まで来たから、次のエリアの偵察をしておこう!
先に進むことを優先して水場は避けていく。
複数のワニがいるようだが、近づかなければ水場から出てくる気配はない。
砂地や草地にはスライムがいる。
これはリンがすぐに焼き払っていく。
水のある場所では俺も【水刃】を使う。
核を狙えば一撃だ。
忍法は敵に近寄らなくていいのが便利だね。
槍でも倒せるが、水刃の方が被弾のリスクは格段に減る。
「スライムの強さは前と変わらないかな?」
「そっスねー。拳銃でもよゆーっス!」
「強さは同じくらいかもしれません。ただ、集まっていますねー」
「言われてみればそうっスね!」
「あ、群れてるのか? すぐに倒してるから実感がなかったよ」
強さは同じでも一度に現れる数が多い、ということだ。
「拠点の近くでもスライムが集まってくることはあったけど、戦闘に時間がかかった場合だけだよな」
「何匹いたって、スライムなんかすぐ倒せるっス!」
「最初のころは喉にスライムを詰まらせてたくせに、よく言うわ」
「あれは不意打ちなんでノーカンっス!」
知りもしない場所を一人で出歩くからである。
最近はそういうことは減った。
……ゼロではない。
「不意打ちや闇討ちも立派な戦術だ! 気をつけろ!」
「そーっスね! 気をつけるっス!」
トウコが軽い調子で敬礼する。
素直でよろしい!
リンが言う。
「森の水たまりにもスライムさんがたくさんいたことがありましたねー」
「ああ、トウコが引き込まれたときな!」
「うっ! イヤな記憶がフラッシュバックしたっス!」
スライムにやられっぱなしのトウコであった。




