槍は刀より強し!? 銃はそれよりも強し!
俺たちは難なく三匹のワニを仕留めた。
そのままワニを狩りながら進んでいく。
ワニはマグナム弾なら二発あれば倒せる。
【ピアスショット】などのスキルを使えば一発だ。
俺の【水刃】も、いい角度で決まれば一発で倒せる。
だが大抵は二発だ。
一発で倒せなければ槍で追撃。
これなら接近戦に持ち込まれる前に倒せる。
リンの【火魔法】は少しワニと相性が悪い。
命中させても、水たまりに逃げこまれると倒しきれなくなる。
炎は相手を焼くことでダメージを与える。
当てたら即死という性質ではない。
トウコが俺の槍を指差す。
「今日は槍なんスね、店長」
「そうだ。もう食われるのはコリゴリなんでな。それに刀だと戦いにくいんだ」
「どうして戦いにくいんですか?」
「ゴブリンみたいに人型なら刀でいいんだ。だけど、ワニは姿勢が低いだろ? だから斬りにくい」
トウコがうんうんとうなずいている。
「わかるっス! 格ゲーのちっこいキャラみたいっスね!」
「そうそう。上段攻撃が当たらない感じだ」
伝わるかな?
格闘ゲームはたいてい人間が戦うわけだが、たまに犬や鳥のような変則的なキャラクターがいる。
特殊な当たり判定になって戦いにくいのだ。
「よくわかりませんが……上から振り下ろして斬るんじゃダメなんでしょうか?」
「うーん。ワニの姿勢が低すぎるんだよなぁ……」
やっぱり伝わらなかった!
もちろんゲームと違って、現実には当たり判定なんてない。
当てにくいだけである。
ワニは地面を這うような低い姿勢なので、刀で斬りにくいのだ。
「下段攻撃っス! しゅしゅしゅっ!」
トウコがしゃがんでパンチを連打している。
ワニの姿勢の低さだと、しゃがみパンチすら有効打にはならない。
しゃがみ弱キックなら……いや、体勢的に威力が出ない。
蹴りで倒すのは俺には無理である。
トウコが言っているようなゲーム的な発想もちょっと違う。
刀で斬る場合のフォームの問題だ。
力が伝わりにくくなる。とにかく的が低すぎると威力が出ないって話である。
「下段斬りか。ダメではないけど力が入りにくいし……難しいんだよ。片手で刀を振り下ろすなら、こういうフォームになる」
俺は右手に刀を持って、刀を振り下ろす。
腕を前に伸ばして、前につんのめるような感じ。
「ちょっと頼りないっスね」
短い忍者刀で地を這う姿勢のワニを斬ろうとすると、かなりバランスが崩れる。
当てられはするが、威力は出ないのだ。
【ファストスラッシュ】などを使えばマシにはなるが、一撃必殺ではない。
「逆手に構えるともっと近づかなきゃいけないし、下から振り上げても威力が出ない」
ゴブリンなら首や脇の急所を狙う。
角鹿なら胴体。
斬りやすい位置や部位があるのだ。
剣術においても狙うのは高い位置が普通だ。
上半身を狙う。
足を狙うのは難しいし、スキも大きい。
ついでに俺の武器は忍者刀なので、本来の日本刀よりも刀身が短い。
リーチや腕の位置のせいで、足元は狙いにくくなる。
剣道でも下段構えはあまり使われない。
上段か中段に構えて、面、腕、胴を狙う。やはり足は狙わない。
足を斬っている間に頭や胴を斬られて負けるからだ。
モンスターが相手なら、なおさら危険だ。
ヒットポイントやステータスのせいで、斬っても倒せないことがある。
先に当てても反撃を受けてしまう。
「じゃあじゃあ! 突き! 突きならどうっスか?」
「一撃では倒せないんじゃないか? そうなると反撃が怖い」
ワニは素早い。そして皮が硬い。
頭部はとりわけ皮が分厚くなっていて、刃が通らない場合がある。
腰を入れた突きを打ち込んだ場合、倒しきれなければ相手の口に突っ込んでいくことになる。
相打ちになどなりたくない。
楽に、無傷で勝ちたい。
「ガブっとされちゃうんスね!」
「たしかに、ワニさんはお口を大きく開けているので、怖いですよねー」
「だろ? 攻めにくいんだよ」
たいていの場合、ワニは近づくと大口を開けて威嚇してくる。
これが結構、威圧感があるんだ。
「じゃあ、横とか後ろからズバッとやればいいっス!」
「すれ違いざまに斬れればいいんだけど、ワニはすぐに振り向いてくるからな」
直線的な動きをする鹿などにはすれ違い斬りが有効だ。
角鹿はワニより大柄だから胴体を斬りやすい。
その点、ワニは常に正面を向けてくる。
振り向くのも速い。
ガードを下げないボクサーと戦うみたいな感覚で、打ち込みにくいんだよな。
「困りましたねー」
「そういうときに、リンが【ポージング】で隙を作ってくれるとありがたい!」
「リン姉のポーズは目にありがたいっス!」
そうじゃないだろ!
それもありがたいが!
「そ、そうですか? えへへ……」
リンは照れたようにはにかむ。
「んー。いつもみたいに避けてから斬ったらどうっスか?」
「ワニの動きは読みにくいし、素早いからな。もし避けそこなったら、そのまま引き倒されてやられるかもしれない」
俺に耐久力はない。
一発が命取りだ。
すべてかわせばいいのだが……相手が素早すぎる。
角鹿なら動きが直線的なので、避けながら斬れる。
コウモリなら向かってくるコースを予測して斬ればいい。
ゴブリンはどうとでも料理できる。
「皮の硬さも厄介だな。普段は刀の切れ味を使って斬ってるんだ。腕力や勢いだけじゃない。ワニの場合、革に弾かれるからいつもとは勝手が違う」
「それで槍なんですねー」
「槍なら振り下ろす力が使えるから、低い位置の相手でも斬りやすい。叩き切るって感じになるな。もちろん突いてもいいが」
突きなら、けん制しながら近寄らせずに攻撃できる。
「スキルは乗らないんスよね?」
「ああ。でも距離を取って戦えるのは単純に強いぞ」
【片手剣】は乗らない。
【打撃武器】は一部有効。
「そうですねー。魔法も遠くから戦えます!」
トウコが両手に持ったマグナム銃をクロスさせる。
「となると、やっぱ銃が最強っス!」
銃でも相手の姿勢は影響する。
小さな目標や素早い相手には当てにくい。
しかし最大のアドバンテージはリーチ。
遠距離から攻撃できるうえ、威力も高い。
皮の厚みなどものともせずにぶち抜く。
強すぎるわ!
俺は前方を指差す。
「お、またワニが来た! たのむぞ最強!」
「おねがいね、トウコちゃん!」
「うえぇ!? またこのフリっスか!?」
まかせたぞ!
剣道の場合、足を斬るのは防具がないから危険とか、ルールや美学の観点もあると思います!




