人間は考える葦である。ゾンビは考えないがヨシ!
トウコがすっと手を出してくる。
「で、店長。おみやげのワニ肉はどこっスか?」
「ないわ! 土産はこれな」
ほい、とトウコに葦の束を渡す。
「なんスかコレ!? 草っスか?」
「対岸に生えてたものだ。このあたりに生えている草とは違うから一応持ってきた」
トウコがげんなりとした顔で言う。
「こんなん要らないっス!」
「まあ、そう言うな。一応鑑定してくれ、リン」
たいした素材じゃないと思うけど一応ね。
リンはトウコから草を受け取ると空中に向けて話しかける。
「はーい。システムさん。どうですかー?」
タコウィンナー姿の【サポートシステム】が現れて答える。
<名称:ヨシ。カテゴリ:素材>
「へえ。カテゴリは素材か」
「名前しかわかんないっスね!」
葦はもともとアシと読んでいたらしい。
でも悪しでは縁起が悪いので良しに呼び変えたのだとか。
「俺はアシ派なんだけどな。ちなみに名言の、人間は考える葦である、で覚えたんだ」
フランスの有名な哲学者、パスカルの言葉である。
トウコは興味なさそうに言う。
「どっちでもヨシっス!」
「人間は自然の中ではか弱いけど、考えるから尊いって意味なんだが……。トウコは何も考えてなさそうでうらやましいよ!」
トウコがゆるい笑みを浮かべる。
「へへ! そっスかー?」
「褒めてないんだが、まあヨシ!」
こんな草一つにだって意味があると思いたい。
たとえ、使い道がなかったならそれでもいい。
役に立たない素材だと知ることに意味があるのだ。
スキルの使い方だってそうだ。
いろいろと試して、考えていきたい。
試行錯誤の中でこそ技術も知識も磨かれるのだ!
俺は荷物を担ぎなおす。
自律分身が持っていた槍や素材も俺が持つ。
「んじゃ今日は帰ろうか」
「そうっスね!」
「帰ったら検証ですね!」
リンが小さくガッツポーズを作る。
俺とトウコがそれに反応して首を向ける。
リンが申し訳なさそうな顔で言う。
「あ、ごめんなさい。わざとじゃないんですー」
「いや、いいよ。でも戦闘中に誤爆しないように気を付けてくれ」
「じゃあ練習っス! 連続でセクシーポーズしながら歩くとかっ!」
「うん。いいね。そうしよう!」
「えっ? ほんとにするんですか?」
「何事も練習だからな、うん」
しかたないね! 練習だからね!
拠点に帰り着いた。
「ポージングの効果は切れてたんですよね?」
「ちゃんとできてたぞ。不自然に意識をひっぱられることはなかった」
リンは少し困った様子で言う。
「そ、そうですか? それならよかったですー」
「うへへ。堪能したっス!」
トウコはヨダレをたらさんばかりの緩んだ表情である。
俺とトウコはスキルの注目効果とは関係なく、ずっとリンのポーズを眺めていた。
道中ずっとリンが「効いてますか?」と訊ねてきたのが面白い。
「んじゃ、ちょっと休憩したら検証を始めるぞ!」
「はーい!」
「じゃー、若いモンにまかせてあたしは寝るっス!」
「お前が最年少だろ! まあ、おやすみ!」
「トウコちゃん。おやすみなさーい」
俺たちは笑顔で見送る。
「今夜はいい夢が見られそうっス! うへへー」
トウコはへらへらしながら転送門へと消えていった。
忍法研究会はじまる!
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