行雲流水のごとし! 川底歩行の術!?
川に近寄り、水に手をかざす。
濁った川の水そのものを操る!
「【操水】! 水よ分かれろ!」
最大の水量を操る――全力で魔力を込める!
水面が動く。
水が左右に分かれて水量を下げていく。
わずかな範囲だが川底が見えてきた。
これは、モーゼの海割りの小規模版といったところ。
しかし――すぐに水が川底を隠してしまう。
「む。操った水が押し流されてしまったか」
せっかく操った水が、次々と流れてくる別の水に押し流されてしまうのだ。
元の位置を保とうと力をかけてみるが、自然の力には及ばない。
何百、何千リットルという水がとめどなく流れてくるのだ。
それに対して、俺が操れる水量はたかが知れている。
百リットルにも満たないだろう。
人間一人と少しくらいの水量だ。
川を割るなんてとてもできない。
しかし、川全体を操らなくていいのだ。
自分の周囲に限定すれば……!
「集中しろ……!」
浅瀬に足を突っ込んで川の流れを感じる。
そして目を閉じる。
水が俺の肌を撫でる。
少し冷たく、こそばゆい。
流れる水は常に変化し続けている。
一処にとどまらず絶えることがない。
これから操るのは水だ。
しかし、流れる水を固定するのとは違う。
硬くして一か所に押し止めるわけじゃあない。
俺自身の肌に触れる水は常に流れ続けている。
その流れを操る!
まるでバリアのように水をはじくイメージ。
周りの水を遠ざける。
いや、違う。
流れに逆らわず、それにまかせる。
わずかに流れを変えて、その隙間に身を置くイメージ!
「――【操水】! 流れを操れ!」
川には流れる方向がある。
上流から下流へとゆったりと流れていく。
その流れに逆らわないことだ。
上流側に力を集中させて水流を二つに分ける。
川の流れに分岐点を作るのだ!
足に触れていた水の圧力が弱くなる。
目を開ける。
水の壁――いや、流れができている。
濁っていて奥は見通せない。
陽光が乱反射して、ゆらゆらと輝いている。
そのまま維持しながら、俺は川底を進んでいく。
水の空白地帯も動きに合わせてついてくる。
砂が堆積した川底は少しぬかるんでいる。
しかし、足を取られるほどではない。
苦もなく進んでいける。
俺はそのまま川底を歩いて反対側へと渡りきった。
川岸にたどり着いたところで【操水】を切る。
俺は汗をぬぐう。
「ふう……できたぞ!」
これぞ忍法――川底歩行の術!
水を操り続けるのはかなりの集中を要する。
それに魔力消費がデカすぎる。
実用性はともかく【操水】のスペックの一端がわかった。
今はまだ一人分のスペースでしかないが、水の流れも操れた!
【操水】はただ水を動かすだけじゃない!
スキルレベルを上げれば三人ぶんのスペースも作れるだろう!
より多くの水を操れば理論上は可能!
だけどその手は使えない。
魔力が足りないからだ。
忍者の職業には魔力のステータス補正がない。
魔力量はレベルと共に増えていくが、こういう使い方だとすぐに足りなくなってしまう。
普段の俺はこまめな休憩によって魔力をやりくりしている。
【瞑想】や魔力回復の丸薬である。
今回のように連続で魔力を使う状況だと【瞑想】で休むことはできない。
となると魔力回復ポーションや丸薬だが……。
いまのところ草原ダンジョンでは魔力回復ポーションが手に入っていない。
丸薬の材料を確保しなきゃな。
俺のダンジョンならポイントで魔力回復ポーションを引き換えられる。
しかしここに持ち込めるのは数個だけ。
【忍具収納】を使ってポーション手拭いの形でしか運べない。
魔力を回復する手段!
これが新たな課題である!
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