ツノウサギは水攻めで!
サバンナエリアにやってきた。
日差しが強く、空気が乾燥していて少し暑い。
ここでは水を補充できないので手持ちの水を有効に使いたい。
リンがウサギの穴を指さす。
「この奥にツノウサギさんがいます!」
【魔力探知】で発見したのだ。
普通なら手が届かない深さにいる。
「んじゃ、【操水】で穴から追い出してみよう!」
俺はペットボトルの水を巣穴に流し込む。
量は五百ミリリットル。
【操水】で水を蛇のように操って穴を進む。
「このへんか?」
「もう少し奥……そうです。その先にウサギさんがいます!」
トウコがなにか言いたそうにニヤニヤしている。
余計なことを言う前に次の工程へ!
【水刃】では巣穴の中でウサギを倒してしまう。
ドロップアイテムのために外に出してから仕留めたい。
【操水】で水を固くしてぶつけるイメージを思い浮かべる。
「んじゃ適当に……暴れろ!」
「うぇ? なんで急にテキトーになるんスか!?」
「穴の中の様子は俺には見えないし、【操水】にも感覚なんてないからな。リンのナビでなんとなく操作してるんだ」
リンが楽しそうに言う。
「えへへ。共同作業ですね!」
「リン姉、うれしそうっスねー」
「お、出てきたぞ! リン!」
「ウサギさん! こっちですよー!」
巣穴からツノウサギが脱兎のごとく飛び出してきた。
そこをすかさずリンが【ポージング】で引きつける。
「キュゥッ!」
ウサギがツノを突き出して勢いよくリンへ突っ込んでいく。
「わあっ!」
リンの盾トンファーがウサギの突進を受け止める。
リンはバランスを崩しながらも、なんとか踏みとどまる。
ケガはないようだが、少し腰が引けているな。
これも練習!
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!」
「キュッ!」
ウサギが逃げ去ろうとしている。
だが俺が追うまでもない。
すでにトウコが銃を抜いて狙いをつけている。
射撃。乾いた銃声がサバンナに響く。
命中!
「へいっ! ウサギ一丁っス!」
「ナイスショット!」
「うまくいきましたね! 穴の中に隠れててもばっちりです!」
「だな!」
【水忍法】も【モデル】もいい感じ!
トウコが醒めた顔で言う。
「でも前みたいに煙玉でよくないっスか? コスパ悪いっス!」
一瞬の間。
気まずい沈黙が流れる。
「それを言っちゃあお前……」
「トウコちゃん……その通りなんだけど……うん」
煙玉でいぶして銃撃で倒す。
安定のウサギ狩りルーティン!
時間も労力も圧倒的に優れる完成されたパターンである。
「戦い方に幅を持たせるための訓練だと思え。目の前のウサギだけじゃなくて、もっと先を見るんだよ!」
「なる! ワンパじゃダメってことっスね!」
トウコは手でひさしを作って遠くを見ている。
「トウコちゃん……ウサギさんを見つけたの?」
「先を見てるっス!」
「実際に先を見てどうするんだよ!」
目先の戦闘だけじゃなく、いずれ来る未知の状況に対処できるようにしておく。
訓練した動きが実戦で出るものだ。
そういう意味である!
「宝箱の中身は――」
俺はドロップした宝箱を開封する。
中身は茶色い円錐の角だ。
拾い上げて二人に見せる。
とたんに二人がガッカリした声をあげる。
「あー、角っスねー」
「食べられませんねー」
「二人とも露骨にガッカリするよなぁ。これはこれでレアだし……」
「だって使い道ないっス!」
レアだけどあまり使い道のない『角兎の角』。
不遇である。
「まあ、気が向いたらなにか作ってみよう」
【薬術】や【毒術】の材料になるかもしれない。
ちなみに【毒術】で作った毒液を操れないことはもうわかっている。
ポーションも真っ先に試したが操れなかった。
どうやら毒や薬は水じゃないとみなされるらしい。
しかしこれは原液――純粋な毒や薬の場合だ。
だけど水に混ぜたらどうだろう。
薄めたら?
あるいは操った水でくるんだり、上に乗せるような使い方なら?
これは可能性があるとみている。
そう期待してイメージを高めておく!
リンはじっと兎角を見ている。
「この角……【中級忍具作成】でなにか作れるかもしれませんねー」
「それもいいな。ゴブリンリーダーの武具も引き換えていないし、いろいろ試してみようか」
リンが小さく首を振る。
「ゴブリンさんの指輪はあんまり……」
ん……?
指輪を作るとは言ってないよ!?
今日もリンの指には鹿の角から作った指輪がはめられている。
ああ……そういうことか。
角からアクセサリーを連想したのね!
わからん! ムズい!
角の使い道は指輪じゃないと思う……!
ゴブリン素材は武器や防具として使うだろうし!
とにかく、あとで考えてみよう!
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