というわけで俺の忍法も見てくれ! その2
リンが言う。
「ゼンジさん。検証者にはどちらをセットしたんですか?」
「【風忍法】だ」
「じゃあ【水忍法】が気に入ったんですね?」
「ああ。けっこう悩んだんだけど、【水忍法】のほうが使い道が多いと思ってな」
当然、選んだのには理由がある。
「でも【検証者】にセットしたら外せないんスよね?」
「もう外さずにつけておくつもりだ。たぶん外したら二度と取れなくなるからな」
「んー。それでいいんスか? いろんなスキルを付け替えたほうが便利じゃ?」
「それも考えたさ。だけど二系統の忍法を使えたほうが便利だろ?」
トウコの意見もわかる。
【検証者】に空き枠があれば検証がはかどる。
もし【水忍法】をひとつずつ試せたら便利だろうな。
実際に試してから育てるスキルを選べる。
しかし、ここはトレードオフ!
どちらかしか選べないものと割り切る!
「【検証者】にセットした【風忍法】は熟練度であがるんでしょうかー? 基礎スキルなんですよね?」
「たぶん基礎スキルは熟練度で上がらない。でも関連スキルは取れるから問題ないぞ」
「それだと【風忍法】はスキルレベルが上げられませんね。それとも……関連するスキルを最大まで上げたら解放されるんでしょうか?」
「お、さすが助手! よく覚えていたな!」
「ふふ……ありがとうございます、先生っ!」
リンが照れ笑いを浮かべる。
忍具博士と助手ごっこである。
リンとはよく実験や検証を共にしているから、理解が深い。
トウコはわかっていない顔だ。
「うぇ? 解放ってなんスか?」
「【分身の術】のレベルを五にしたとき解放された仕組みだよ。基礎スキルは解放されるまでレベルが上げられないんだ」
関連するスキルを最大レベルまで育てると「スキル調整」「基礎スキルのスキルレベル向上」が解放される。
今のところ【忍術】系統はこの二つが解放されている。
トウコが腕を組んでうなずく。
「なる! 完全に理解したっス!」
ホントに理解したのかよ……。
「解放される力は便利だが……どうせ【風忍法】はそこまで育てられないから関係ないんだよ」
「あー。スキルポイントが足りないからっスねー。ポイントケチケチっス!」
スキルポイントは貴重なのだ。
すべてのスキルを育てることはできない。
「そうなんだよ。だからメインにする【水忍法】にポイントをつぎ込む。だけど気になるスキルはたくさんあるからぜんぜん足りない」
「【水忍法】メインより【風忍法】で重酸素とか粉塵爆発で無双するのがいいんじゃないっスか?」
みんな大好き粉塵爆発!
「そりゃ強そうだが……問題はできるかどうかだ」
重酸素や一酸化炭素など生物に有害な気体を操れるなら強いだろう。
でも空気が操れるからって元素が操れるとは限らない。
【水忍法】でも水素や酸素は操れていない。
リンがとりなすように言う。
「ゼンジさん。【水忍法】を選んだ理由があるんですよね?」
「ああ。目に見えない風はイメージできない気がしてな。水ならもうちょいマシだろ?」
俺にはリンのような豊かな想像力はない。
風や空気は目に見えない。
見えないものを操作するイメージ……。
どうにも想像がつかない。
練習次第かもしれないが、習得に時間がかかると思う。
その点、水は目に見える。
「じゃあ【地忍法】のほうが良くないっスか?」
「最初に【検証者】にセットしてしまったからな。このおかげで忍法も二系統は取れないことが分かった。で、【検証者】から外したら、もうセットできなくなったんだよ」
どっちにしろ【地忍法】は選ばなかったと思うが、そもそも選択肢から消えていたのだ。
「へー! それで水なんスねー」
「水なら防御にも使いやすいし……なにより火が消せる」
リンが口元に手を当てる。
「あ……!」
「うぇ? なんで火を消すんスか?」
リンは理由に思い至ったようだ。
トウコはわかっていないようなので説明してやろう。
「吸血鬼戦で一番ダメージが深かったのはリンだったろ?」
「そーっスね」
「そのほとんどが火傷なんだ。水があれば防げると思ってな」
トウコが目を見開く。
「あー! そういうことっスね!」
「私のため……なんですね?」
「そうだ。もしリンが火傷しそうなら俺が消してやる!」
「あ、ありがとうございます! そんなことまで考えてくれるなんて……やっぱりゼンジさんは優しいです!」
「おおー! イケメン発言っ! 店長は心がイケメンっス!」
「いちいち心に限定するな! トウコが沼にはまったときも引き戻してやるぞ!」
「ははっ! そうそう沼にはまったりしないっス!」
「スライムをのどに詰まらせたり水たまりで溺れたりしてたけどな!」
「うぐっ! 店長いけずメンっス!」
水には質量がある。
攻撃だけじゃなく防御にも使える。
自分と仲間を守る力として期待しているのだ!




