【モデル】スキルレベル二! 【ポージング】を愛でる会!
「スキルレベルを上げました!」
「よし! さっそく【ポージング】してくれ!」
「はいっ! ど、どうでしょうか?」
リンは照れながらポーズをとる。
胸を張って腹をひっこめ、足を前に。
尻もきゅっと上を向く。
グラビアのような派手で扇情的なポーズとは違う。
ファッションモデルのようなスタイリッシュなポーズだ。
しなやかな体のラインがSの字を作っている。
突き出された胸の破壊力がこれまでのポーズとは違う……!
「ナイスポーズっス! じゃあ次は一枚脱いでみよーっ!」
胡散臭いカメラマンみたいなことを言いよる!
「脱ぐのはちょっと……違うかなー」
「うえぇー? じゃあそれはあとで!」
リンはトウコを華麗にスルーして俺に向き直る。
「ゼンジさん。スキルの効果は出てますかー?」
「ああ。さっきよりも強いぞ。吸い寄せられるような感覚がある」
というかポーズが良かった!
「さっきよりキラキラがマシマシっス!」
「そうですか? それならよかったー」
ふむ。
たしかにさっきより強い効果が出ている。
ちゃんと体感できるレベルで意識がリンに向く。
でもなんていうか……それだけだ。
予想を超える感じがないんだよな。
リンが俺の顔を見て、はっとする。
あ、顔に出てたか。
「あれ……ゼンジさん? ……もしかしてダメでした?」
「ダメじゃあない。だけどもっといけるはずだと思ってな!」
トウコもうんうんとうなずいている。
「そーっスね! 今はふつーにスゴいって感じっス!」
そうそう。凄いけど、それだけだ。
スキルがなく立ってリンがポーズを取ってたら見るし。
そんなの当たり前だ。
リンは自信なさそうに言う。
「うーん。……どうしたらいいのかなー?」
「あ、リンが悪いんじゃなくてスキルのほうだ。まだ力を出し切れてないんじゃないか?」
「そーっス! リン姉の素材ならもっとイケるっス!」
「スキルの力を引き出す……うーん。むずかしいですねー」
イメージがつきにくいのかな?
「スキルと会話するんだよ! 俺の【忍具作成】だってそうだ。話せばわかってくれる!」
「さすが店長! よっ! スキルマニアっ!」
茶化すな!
「ほら、リンが魔法を使うときはもっとこう……爆発力があるだろ? その感じでやってみてくれ!」
「魔法みたいにですかー。うーん。でもモデルは魔法使いとは違いますし……」
「違うってなにがだ?」
「魔法はなんでもできます。モデルは普通です」
ふむ。
魔法はなんでもアリ。
モデルは現実的。そう思っているのか。
あー。わかったわ。
これはイメージの問題だ!
リンはファンタジーやゲームに疎い。
だから魔法は、御伽話の世界のようになんでもできる不思議な力だと信じられた。
ゆえに型にハマらない自由な発想が持てる。
一方、モデルは現実の職業だ。
実情をわかっているから常識に引っ張られてしまう。
そこが問題なのだ。
なら、それを打ち壊せばいい!
俺は当然のような顔を作って言う。
「大丈夫だよリン。スキルも魔法みたいなものだ。願いが叶う力なんだよ!」
「魔法と同じですか……うーん」
したり顔で話してはいるが、根拠などない。
ただリンが信じさえすればいい!
リンはまじめな顔で考え込んでいる。
さらに説得!
「忍者だってシューターだって、料理人だって、不思議な力を出せるだろ?」
「あ……たしかにそうですねー! 魔法も同じなんですよね!」
お、信じてきたかな?
リンの目に理解が広がってくる。
「最初に【モデル】を選んだとき、いいなと思ったんだろ? 自分に見合った職業やスキルを取ったはずだ。俺もそうだった。そのときの気持ちを思い出すんだ!」
自分の選んだスキルを信じる。
選択は間違っていない!
「はい! ええと……あのとき私、落ち込んでばかりの自分を変えたくて……ゼンジさんに振り向いてほしくて……そうです! 【モデル】は私の願いを叶えてくれたんです! ズルくても……ズルくてもいいですよね!?」
そういえばリンは最初からそう言っていた。
ズルをして、俺を振り向かせるために選んだスキルだと。
リンはいつだって俺を中心に物事を考えている。
ダンジョンを攻略するためじゃなく、俺を攻略するためにスキルを選んだ。
そんなことしなくても俺はとっくに攻略されているのにな。
だけどその努力、嬉しいに決まっている!
「いいぞ! その気持ちをスキルに込めるんだ! 遠慮なんていらない! 全力でやるんだ!」
「はいっ! では……えいっ!」
切り替えはやっ!
素直なんだよな。そこがリンの良いところだ!
リンが【ポージング】する。
指先からつま先まで意識が通ったような洗練されたポーズ!
これまでとは明確に違う!
違うのはリンの表情だ。
後ろめたさや自信のなさは消えている。
かわりに浮かんでいるのははにかむような笑み。
まるでふわりと花が咲いているかのようだ!
潤んだ瞳がまっすぐに俺の目を射抜く。
その瞳から目が離せない。
心臓が高鳴って、胸がきゅっと苦しくなる。
「お……!? す、すごいな。すごいぞ!」
いかん! 語彙が……。
まともな口がきけなくなってしまう!
「やばあ……! リン姉、ヤバすぎっス!」
トウコも興奮した声。しっかり効いているらしい。
だがそちらを見ることはできない。
まるで頭を掴まれて固定されているみたいに、リンにくぎ付けにされている。
「き、効きました?」
「バッチリだよ! ちょっとヤバすぎるくらいだ!」
「ヤバいっス! あー! 我慢できないっス!」
トウコが手を前に伸ばし、ふらふらとリンに近寄っていく。
恋するゾンビか!
俺の脳もとろけて腐りそうだよ!




