俺の忍法を見てくれ! ……の前に始まる相談事!?
リンとトウコが帰宅した。
草原ダンジョンのテーブルには、揚げ物、サラダ、炊きたての米といった料理が並んでいる。
ダンジョン素材ではなく、部屋で普通に調理したものだ。
「とってもおいしいですー」
「おいひーっス! おかわりっ!」
二人の反応はおおむね好評。
こういう料理は仕事で毎日作っていたから、さっと作れる。
食事がひと段落したところで、リンが口を開いた。
「あの。ご相談があるんですが……お時間いいでしょうか?」
「いいぞ。どうした?」
俺の水忍法を見てくれ! と言いかけていたのだが、それは後でいいだろう。
急ぐ話じゃないしな。
「【モデル】のスキルレベルを上げようと思うんですが、どうでしょうか?」
「うぇ? なんでそんなの上げるんスか?」
不思議そうに言うトウコをたしなめる。
「そんなのってことはないだろ!」
「どーせなら魔法がいいんじゃないっスか?」
それは俺も思う。
なんで今更【モデル】なのかは気になった。
「モデルの仕事で使うってことか?」
「あ、いえ。外で使うにはスキルポイントが足りないかもしれません」
リンはスキルが簡易モードなので必要ポイントが高い。
レベル二に上げるには二十ポイントかかる。
レベル三は四十ポイント必要なので、厳しいだろう。
「てことはダンジョン攻略に【モデル】を使うのか?」
リンが顔を曇らせる。
眉根を寄せて少し気後れした様子。
「はい。この間の事件で私、あんまりお役に立てませんでしたし……」
「いやいや! リンはかなり活躍してただろ!」
【火魔法】で敵を焼いたりと、活躍の場はあった。
なぜか本人に自覚はないようだが……。
トウコが胸をはって言う。
「ちな、あたしはほとんど寝てたっス!」
「堂々と言うな! まあ、俺も不甲斐ない姿を見せてしまったし強くは言えないが……」
トウコが笑顔で親指を立てる。
「仲間っスね、店長!」
「そっちの仲間入りは遠慮させてもらうわ!」
力が及ばずとも足掻いていたい。
あ、リンもこういう気持ちなのかな?
リンが言う。
「私ももっと、なにかできないかなって考えて……ゼンジさんを守るにはどうしたらいいのか。なにが足りなかったのか……そういうことを考えました」
リンは少し悲し気に笑う。
あー。けっこう悩んでたんだな。
「リンはちゃんと役割を果たしていたと思うぞ」
「そこなんです! 私の役割は魔法……ですよね?」
「そりゃそうだ。魔法使いだからな」
「でも、それだと私は守られてばかりで……」
だから役割だってば。
「あたしも銃だから同じっス! 仲間っスね!」
「トウコは前に出すぎて、物理でぶっ飛ばされてたけどな!」
銃使いも後ろで射撃するのが正しい。
だから、役割だってば!
リンがキッと目に決意をにじませる。
「そこで【モデル】なんです! もっと頑丈になれば前に出て戦えますよね!」
「【美肌】の防御力か……俺たちには壁役が足りないし、それは助かるんだけど……うーむ」
【モデル】というスキル名ではあるが、防御力は侮れない。
見た目だけのスキルではないのだ。
俺は悩ましい思いで首をひねる。
女子に守られる男子とはこれいかに。
男として大丈夫なのか……それとも、そういう考え自体が時代遅れなのか?
ステータスが存在するダンジョンでは性別の差はあまり意味をなさない。
生命力で勝るリンは俺よりも頑丈で死ににくい。
でもなあ……。
少年漫画を読んで育った俺としては、ちょっと受け入れにくいのだ。
姫に守られる忍者はアリか?
ないだろ!
ピンチの場面で颯爽と前に立つ!
そういう立ち回りをしたいじゃないか!
でも、それをやると俺は死ぬ!
紙装甲だからね!
前に立ってから回避しても守った感は薄い。
これはずっと課題としているのだが……解決策が見つからない。
トウコがニマニマ顔で言う。
「いいっスね! あたしもリン姉が前に出るのに賛成っ!」
「お? トウコは妙に乗り気だな?」
さっきまで【モデル】をそんなの呼ばわりしていたくせに。
「へへ。リン姉を後ろから眺め放題っス!」
トウコはさらに顔をゆるませている。
ああ、トウコに聞いた俺がバカだったよ!
そんな理由で前に立たせられるか!
トウコの言葉にリンが激しくうなずく。
「そうなのトウコちゃん! 後ろにいたら見てもらえな……あっ!」
リンが慌てて口をつぐむがもう遅い。
だいたい言っちゃってる!
「いや……え? マジで?」
そんな理由で前に出たいの!?
リンは顔を真っ赤にしてうつむいている。
「その……あうう。それもあるというか……」
トウコがひらめいた顔で言う。
「あっ! リン姉はエロいおねーさんの件を気にしているんスね!」
「うん……すごく綺麗……強かったから……」
綺麗というより肉感的なんだよな。
……って思い出してる場合か!
それとトウコ、カミヤの件を掘り返すんじゃない!
リンはカミヤ戦で俺が魅了されたあたりの記憶があいまいだ。
たぶんショックのあまりなかったことにしてしまったのだろう。
そのままではマズいので、少しボカして説明した。
だからリンも【魅了】のことを理解している。
「つまり【モデル】で【魅了】を打ち破る作戦なんスね!」
「トウコちゃん。そうなの! 私が正気に戻せるんじゃないかなって……ゼンジさん、どうでしょうか?」
リンは自信なさそうにちらちらとこちらをのぞき見ている。
「【魅了】を上書きするってことだよな? 【モデル】に【魅了】ってあるんだっけ?」
「【魅了】はありませんが【魅力】ならあります」
「それって、どう違うんだ?」
リンに魅力がある点は否定しないが!
似たような字面だが、効果も似ているのか?
「ええと、システムさんによると人に好かれる効果があるそうです」
「あたしに効きまくりっス!」
リンがあわてて手を振る。
「あ、いつもは使っていないので大丈夫です!」
「たまには使ってんのかよ!?」
さすがにツッコんだ!
リンが目をそらして笑う。
「あ、あはは……ちょっとズルしてました。それも言わなきゃ言わなきゃと思っていたんですー!」
俺たちはカミヤの【魅了】をかなりの脅威と受け取った。
心を操る悪い能力だと議論した。
【モデル】に似たスキルが含まれていることを気に病んでいたのか。
しかしこれまで、リンに心を操られたりはしていない。
少なくともそういう感覚はない。
あったとしても……まあいいか! と思う。
って……大丈夫か俺!
すでに恋という魔法に落ちてしまっているのでは!?
よし! 俺の頭は大丈夫じゃない!
「まあ……リンはダンジョンの外でもかわいい! 何も問題ないよ!」
リンとは付き合う前までダンジョンの外でしか会っていない。
スキルの効果で惹かれ合ったわけじゃない。
リンが驚いて口元を押さえる。
「えっ!? あ……。ありがとうございます! そう言ってくれてすごく安心しましたー!」
「いや、こっちこそありがとう。いろいろ考えさせてしまったようだ」
トウコが興奮気味に言う。
「おおーっ! はやく見たいっス! 【魅了】と【魅力】のエロ対決っ!」
やれやれ……トウコはなんにも考えてなさそうだ!
エロ対決が勃発したらトウコが秒殺される未来が見える!
俺の理性もきっと持たないけど!
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