操作の限界を知ろう! 【操水】
リンは今、モデルの仕事で外出中だ。
だがお互いの部屋やダンジョンを好きに行き来していい約束になっている。
ただし寝室へは勝手に入らない。
プライバシーというか……ある程度の線引きは必要だと思うのだ。
これは俺が言いだしたことである。
ちなみにトウコの部屋の合鍵ももらっているが一人で立ち入ることはない。
壁の穴で出入りできるリンの部屋とは違って外を通らなきゃならない。
近所の人やシモダさんに見られると説明が難しい。
というかめんどい。
一人暮らしの女子高生の部屋に出入りするのはマズかろう。
本人が一緒でも部屋に入るのは微妙だが。
水を汲んで草原ダンジョンへ入る。
ポリタンクの水を台に乗せて、漏斗から風呂やトイレに通じるパイプに水を補充する。
これは手作業。
せっかく水を流す装置を作ったし【操水】でやらなくていいだろう。
風呂には前回の水が張られたままだ。
残り湯が冷えて水になっている。
普段はリンが【食材洗浄】か【食材無毒化】で水をキレイにしている。
俺が【水浄化】を取らなくてもいい。
俺は風呂を前に宣言する。
「さーて。ここで試したいのは量! 一度に操れる水のボリュームだ! 【操水】!」
水面がググっと持ち上がる。
風呂の水すべてとはいかない。
水の一部――一抱えほどの水を動かしている感覚。
重い!
ペットボトルの水を操作したときとは段違いの魔力が消費されていく。
操る水の量が増えた分だけ、コストも増えたようだ。
「さて……分量はどれくらいだ?」
水を操って湯船から外に出す。
これを空のポリタンクに入れれば容量がわかる。
ポリタンクの容量は二十リットル。
湯船から水を這わせるように操作して、ポリタンクを登らせる。
そのまま中へと注ぎ込む。
水は空中を移動できないが容器を這い上がることはできるのだ。
湯船から注ぎ口に直接注ぎ込むのは操作が難しすぎる。
細く引き絞ってジャンプさせるような精密な動作はまだできない。
もっと練習したらできるかもしれないが、それはおいおい!
さて、容器はほとんど満水になった。
これで操れる水量がわかったぞ。
「少し足りないが約二十リットルだな。多いような少ないような……」
ポリタンクのふたを閉め、水を操作する。
破壊力を試す!
ポリタンクが激しく揺れる。
だがそれだけだ。
容器を貫いたり破裂させることはできそうもない。
容器の中で水が回転したり、ぶつかったりするだけだ。
この術は攻撃用じゃなく移動させる術なのか。
説明文にも移動させる、とある……。
いや、移動できれば充分だ。
刃物を移動させれば斬撃になる。
今のスキルレベルでは速度やパワーが足りないだけだ。
念のため他の操作も試してみる。
加熱、冷却、硬質化、沸騰、蒸発……。
「かなり時間をかければ手桶の水を温めることはできそうだが……沸騰まではいかないな」
熱とは分子の振動が活発な状態だ。
分子が激しく運動している状態……。
うーん。
想像できるかっ!
リンは【火魔法】を扱うときどうしているんだ?
風呂のお湯を沸かすとか……地味に凄いことをやっているよな!
俺には分子の振動なんてイメージできない。
ゆえに熱は操作できない。
いや、諦めるのはまだ早い!
できる範囲で想像してみるのだ!
水を動かしまくる!
これはシンプル!
これなら俺にもイメージできる!
ちょっと馬鹿らしい発想だが……やってみたらちゃんと温度が上がった。
熱湯ではなく、いい湯加減って感じだが。
つまり水をお湯にできる!
そしてこのイメージをもとにもう一度術をかける!
俺は何度も瞑想休憩をはさんで試行錯誤する。
「よし! 水をお湯にできるようになったぞ!」
やはり熱湯にはならないが、最初より短時間でお湯を作れるようになった。
これも練習だな!
しかしやはり、一定以上の熱を持たせるにはパワーが足りない。
魔力の消費も大きい。
手桶くらいがせいぜいで、風呂は沸かせない。
水を固めることはできないが、わずかに水にとろみがついた気がする。
ごくわずかに固くなったんだろうか。
気化は体感できない。
蒸発が早まっているとしてもゆっくりとだ。
水位が減るほどじゃあない。
「でも可能性は見えた! 地味なのはパワーの問題。スキルレベルを上げればできることは増える!」
【操水】には先がある!
さて次に検証するのは――【水刃】だ!




