増やして集めて……糧にする!?
御庭が言う。
「僕らが調査していた連続噛みつき事件は、吸血鬼化の副作用が原因だね。吸血鬼になりかけた人が我慢できずに人間に噛みつくことで事件が起きた。だけど吸血鬼になる前だ。認識阻害は起きないし、被害者が吸血鬼になることもない。謎が一つ解けたね」
「ショッピングセンター事件で手に入れた赤いカプセルも吸血鬼の血液だったな」
「似たものだと思うけど、同じだと断定はできない。あのカプセルには液体の血液が入っていたけど、カミヤたちが使っていたものは粉薬だったんだ」
「へえ……ちょっと違うんだな」
「さらに成分……というか血液型が違った」
「血液型?」
トウコが言う。
「A型は細かいとかっスか?」
「いや血液型診断じゃあるまいし……」
御庭が言う。
「もっといえば、カミヤが使っていたクスリは色々な血液が混ざっていた点も異なる」
「あれ? カミヤさんの血液だとオカダさんは言ってましたよね?」
リンは首をかしげている。
トウコが言う。
「たぶん、おねーさんは飲みすぎなんスよ! 混ぜるな危険っス!」
「血を飲んだからって自分の血に混ざるわけないだろ!」
当たり前だが、飲んだ血液が血管に入り込むわけがない。
違う血液型の血を混ぜると問題がある。
固まったり、成分が壊れたりすると聞いた。
違う血液型だと輸血できないのはこのためだ。
でも、そういう話じゃないような……。
オカダが言う。
「そりゃ、混ぜて薄めてるんだぜ。ちょっと足りないくらいにして、また欲しくなるようにな」
「クスリには中毒性があるってことだな」
「その通り! それに一度にたくさん飲ませると出来損ないになっちまうし!」
「低級吸血鬼になるってことか……」
「そうそう! ちょっとずつ慣らしていくんだ。一回じゃ吸血鬼になれないってこと」
少しずつ吸血鬼……カミヤの血液を飲ませる。
急激に与えると低級吸血鬼になってしまう。
中毒性のある血液を少しずつ、くり返し飲ませる。
その上で才能があれば自我を保った吸血鬼に変異できる……といったところか。
しかしショッピングセンター事件で手に入れた赤いカプセルは別ものだ。
カミヤの血液ではない。
混ぜ物がない。そして血液型が違う。
おそらく別の吸血鬼のもの。
だとすると、こちらはウラドの血液か?
あのとき赤いカプセルを持っていたのは吸血鬼だった。
吸血鬼が飲み込むと回復効果を得ていた。
しかし、効果が劇的すぎた。
体が耐えきれずにはじけ飛んでしまった。
そのとき吸血鬼は格が足りない、と言っていたと思う。
吸血鬼が赤いカプセル――吸血鬼の血液を摂取すると特殊効果を得られる?
しかし摂取量が多すぎて失敗した?
ふーむ。
ちょっと複雑だが、少しわかってきた気がするな!
「なあオカダ。なんでカミヤは吸血鬼を増やそうとしていたんだ?」
「人間を集めるためじゃないか? 俺たちに客を呼ばせて、その客はまた吸血鬼になる。カミヤは楽に人間を集められる」
「吸血鬼を増やすこと自体が目的じゃないってことだよな」
「ないと思うぜ? 増やしたいなら、もっと大事にすりゃいいんだ。せっかく増えたって、無駄に死ぬからほとんど残らない。だから俺は逃げようと思ってたんだ」
「ああ……仲間を増やしたいなら使い捨てにはしないか」
「ひでー扱いをしても誰も逆らわないところが恐ろしいぜ……」
オカダはスキルについて知ったおかげで、カミヤの支配に気づいた。
逃げる機会を窺って、耐性スキルを研ぎ澄ませた。
「なら、吸血鬼を使って人間を集めることがカミヤの目的か?」
「そうなんじゃないか? 俺たちは集めろって言われただけだからホントのところは知らんけど」
オカダは肩をすくめる。
「集めた人間をなにに使うか……ただ血を吸いたいだけじゃないよな?」
「そりゃ血は吸うが……ああ、そうそう! カミヤはダンジョンの中で人間の血を吸わせて、わざわざ殺させてたんだよ。出来損ないを始末するのもダンジョンの中でやるよう徹底してた」
血を吸うだけなら悪性ダンジョン領域でもいい。
外でも血を吸うことはできるだろう。
ダンジョンや領域内なら認識阻害のおかげで外部にバレる心配がない。
血を吸うことが目的なら、殺さなくてもいいはずだ。
「つまり食事のためじゃないってことか?」
「ああ。ダンジョンで殺すとダンジョンの栄養になるんだってよ」
「そういえば、ダンジョンの糧がどうとか言ってたな」
ふーむ。
ダンジョンに栄養を与える……?
たしかに、俺たちが店にいる間にも領域は広がっていた。
人の命を糧にしてダンジョンを成長させるってことか!?




