吸血鬼戦のデブリーフィング!
吸血鬼と戦った数日後――
俺たちは公儀隠密の拠点に集まった。
事件の後、俺たちは事後処理を御庭に任せて現場を後にした。
そこで今日は俺たちのために説明の時間を設けてもらったのだ。
御庭がホワイトボードの前に立って話し始める。
「さて、前回の結果報告会を行うよ!」
「おう」
俺のチーム、サタケさんの調査チームが揃っている。
御庭は笑顔だ。
「みんな無事に帰ってこれてよかったね! クロウ君たちが加わってから、ずいぶん負傷率が改善している。素晴らしいね!」
トウコが頭をかく。
「そースか? いやあ、照れるっス!」
「皆さんが無事でよかったですー!」
御庭の横でナギさんもうなずいている。
公儀隠密は作戦中にメンバーを失うことも多いと聞いていた。
ダンジョンや異能を相手にする以上、無事に済むとは限らない。
「俺たちのケガはもう治っているから安心してくれ」
トウコはほとんど無傷で、俺の負傷は浅かった。
リンのケガはポーション一本では治りきらなかったが、帰ってから追いポーションして完治した。
結構なダメージだったが、肌に傷すら残らずにすんだ。
ポーションだけでなく【モデル】の効果かもしれない。
肉体的なケガはさておき、リンは魔法をぶっ放した前後のことをよく覚えていなかった。
俺が魅了されていたあたりの記憶があいまいなのだ。
どうも俺の失態……情けない姿は記憶に残っていないらしい。
目の前で寝取られかけたようなものだし……ショックが大きかったのかもしれない。
これはホントに申し訳ない。
当然だが、すぐに説明して謝罪しようとした。
したのだが……脳が理解を拒むらしく、どうにも伝わらない。
忘れて欲しい黒歴史ではあるけど、なかったことになっているのも収まりが悪い。
ちょっと健全さに欠けるというか……。
怒られたり殴られたりしたほうが俺もスッキリするんだけどな。
御庭がサタケさんにたずねる。
「サタケ君のチームはどうかな?」
「俺は肩の負傷が残っているが、動けないほど深くはない。エドガワとアオシマは無傷だ」
御庭が申し訳なさそうに言う。
「例によってクロウ君、治療をお願いできるかな?」
「ああ。悪性ダンジョンが見つかったらポーションで治療しよう」
「すまん。助かる……げほっ」
サタケさんが頭を下げる。
俺はひらひらと手を振る。
「いえ。ポーションは結構手に入るから大丈夫ですよ。ヤバい感覚はあるけど悪性ダンジョン領域で使えることも確認できましたし」
貴重な品とはいえ、ダンジョン内でなら充分に手に入る。
出し惜しみする必要はない。
公儀隠密からは充分な報酬を得ているし、こういうのも込みでいい。
気をつけなきゃならないのは世界の隠蔽力に引っかかること。
一回ならよくてもペナルティが蓄積していく可能性はある。
サタケさんの負傷もすぐに治してあげたいが、悪性ダンジョンが見つかるまで待ってもらおう。
そういえばサタケさんばっかりケガしてんな。
異能やファンタジーな力もなく、身一つで前線に出ている。
当然、被弾も多くなる。
それでも怯まないのはすごい職業意識だと思う。
リンが小声で言う。
「あのときは、一つしかないポーションを私に使ってくれたんですよね……」
サタケさんも負傷していたけど、考えもせずリンに使ってしまったな。
ま、そこは身内贔屓ってことで仕方ないだろう。
御庭が続ける。
「オカダ君とコガ君は僕ら公儀隠密で保護することになった。今後は仲間としてダンジョン関係の仕事を手伝ってもらうつもりだよ。仲良くしてあげて欲しい」
「おーっ! 頼もしいっスね!」
「はい。わかりました」
リンとトウコがうなずく。
サタケさんは吸血鬼に引っかかる部分があったようだが、受け入れてくれたようだ。
「ええと、コガさん……は助けた女性だよな?」
「うん。彼女はあの日、吸血鬼になったそうだ。ダンジョンの中の様子も少し聞けたよ。それからカミヤを中心とした吸血鬼の集団についてオカダ君から話を聞いてある」
「おねーさんの話、詳しく聞きたいっス!」
トウコがそう言うとリンがスンっとなる。
カミヤの話題はよくないよ!
「俺はダンジョンがどうなっていたのか、そこで連中が何をしていたか気になるな!」
結局俺たちはダンジョン内に踏み込んでいない。
そこで行われていたという人間狩り。それに収穫。
オカダ達ならなにか知っているだろう。
御庭が言う。
「僕から話してもいいんだけど、本人と話してもらうのがいいと思う。どうかな?」
「ああ。俺も色々と気になることがある。ぜひ話したい!」
もうすでに御庭とサタケさんはオカダ達から話を聞いているらしい。
俺たちがオカダ達と話すのは、別の視点で話を聞きたいからだろう。
御庭が指をパチンと鳴らす。
「それじゃあ二人から説明してもらおう! オカダ君、コガ君。入ってくれ!」
「ちーっす!」
オカダが気安い様子で手を振りながら会議室へ入ってくる。
服装も普通……というかチャラい洋服である。
とくに拘束されてはいない。
仮にオカダが暴れるようなことがあっても、ナギさんがいるから問題ないのだろう。
続いて入ってきたのは小柄な女性だ。
緊張した面持ちで深く頭を下げる。
「こ、こんにちは……」
質素な感じの女性だが、顔立ちは整っている。
所在なさげに服のすそを掴んでいるが、その手は少し震えている。
緊張しているのかな?
「どうも。俺はクロウゼンジだ。ゼンゾウは偽名だけど、好きに呼んでくれ」
それぞれが軽くあいさつしたところで、御庭が言う。
「それじゃあオカダ君、コガ君。説明してくれるかな。不足があれば僕から補足するからね」
「オーケー! えーと、どっから話せばいいんだ? とりあえず――」
オカダが口を開く。
吸血鬼本人から事件のあらましが聞けるぞ!




