治療と後始末!
俺はリンの様子を確認する。
座り込んだままだが命に別状はない。
まるで眠るように浅い呼吸をしている。
トウコはがれきに半ば埋もれたままだ。
がれきをどけ、トウコを掘り起こす。
よし! 目立った外傷はない!
衝撃で気を失っただけなのか?
「うへへ……おねーさん」
ゆるんだ顔で寝言を吐いている。
……のんきな奴だな。
俺はトウコの肩を揺さぶり、ぺちぺちと頬を叩く。
「おい、トウコ! 起きろ!」
「んぇ? なんスか? おねーさんはどこっスか?」
「いつまで夢見てるんだよ。しゃっきりしろ!」
「んー? あ、吸血鬼はどうなったんスか?」
トウコが跳ね起きる。
銃を探すが、もう手から離れて消えている。
「もう終わった。あっちの二人はもう敵じゃないから撃つなよ!」
「よくわかんないけどリョーカイっス!」
俺たちはリンに話しかける。
「リン……大丈夫か?」
「う……」
リンは苦し気な声で答える。
意識がはっきりしていないようだ。
「リン姉……腕がひどい状態っス!」
両腕は焼けただれてしまっている。
魔法の制御が限界を超えて自らを焼いてしまったのだ。
「思ったよりひどいな……!」
VIPルームを確認したところ、ダンジョンの転送門は消えていた。
もう中には入れない。
今いるダンジョン領域ももうすぐ消えるだろう。
「ポーションを使うぞ!」
「あれ? ここで使っても平気なんスか?」
ダンジョンの外でポーションを使うのは初めてだ。
しかし、リンの負傷は思ったよりも深い。
命に別状はないが、このままでは傷が残ってしまうかもしれない。
家に帰ってからなんて、悠長なことは言ってられない。
俺は収納から治癒薬を取り出そうと念じる。
その途端にぞわりと走る危機感。
これは世界からの警告だ。
今いるのは外ではなくダンジョン領域だ。
でもダンジョンの中とは違う。
いわば喫水域。
通常の世界とダンジョンが交わる中間地点である。
ポーションには世界の隠蔽力が強く働く。
なぜならポーションは効果が劇的で、世界にとって排除すべき異物なのだ。
「ヤバい感じはある! だけどここにいるのは普通の人間じゃないし、見られても問題ないはずだ!」
「そーっスよね!」
俺は収納からポーション手拭いを取り出す。
見られているようなイヤな感覚がまとわりつく。
収納から取り出したが、とくに変化はない。
パージは起きないし、警告メッセージも聞こえてこない。
ポーションが揮発しはじめる。
取り出したらすぐに使わねば!
しかしこれで傷を癒せば世界の禁則事項に触れるかもしれない。
だが、それでも使うべきだ!
迷っていても仕方がない!
一発でアウトにはならないはずだ。
ストーカーがパージされたときはもっと前置きがあったし、散々べらべらとしゃべっていたからな。
どの程度まで安全かを知っておく必要もある。
なにより、リンを早く回復させなくては!
俺は意を決して手拭いを絞る。
しぼり出されたポーションがリンの腕を癒やしていく。
「あ……」
リンの表情が少し和らぐ。
ダンジョン外でもきちんと効果は表れるようだ。
念のため俺の体で遮っているので他人の目には触れていない。
「効いたっスね! あたしの包帯も巻いておくっス!」
「頼む」
ポーションで全回復とはいかなかったようで、小さな火傷は残っている。
そこにトウコが包帯を巻いていく。
【応急処置】スキルも多少の治療効果がある。
傷口が覆われるので、どの程度効いたのかは見えない。
だがそれがいい。
傷が治るところを見られないから、パージの危険が減る。
俺のポーション手拭いも包帯にしたほうがいいかもしれない。
包帯も【忍具作成】で作れるから【忍具収納】で扱えるはずだ。
「店長にも巻いとくっス!」
「おう、頼む」
今回はたくさん攻撃を食らった気がする。
ほとんどのケガは自律分身のときに受けた傷だから、今は残っていない。
それでもいくらかは被弾している。
オカダの拳を受けた腕が腫れて熱を持っている。
折れてはいないようだが、けっこうダメージはあったな。
ハルコさんが声をかけてくる。
「レンさんは大丈夫そうですかぁ?」
「ああ、とりあえずな。そっちはどうだ?」
エドガワ君が申し訳なさそうに言う。
「ボクたちは大丈夫です。途中からよくわからなくなって、あんまり動けませんでした……」
「いや、しょうがないだろ。俺も途中で意識を失ってたしな」
自律分身を出していなかったらヤバかった。
思い返せば、魅了にかかっている間はかなりひどい状態だった。
リンを突き飛ばしたりして……。
マズイだろあれは。
うーむ。あとで謝ろう!
「しゃーないっス! あたしもほとんど寝てたし!」
「自慢げに言うな! ちょっとは反省しろ!」
ハルコさんが不思議そうに言う。
「私はぜんぜん平気でしたぁ。でもトウコちゃんには効いちゃってましたねぇ?」
トウコは魅了で即墜ちしてたからな。
女子なのに魅了にかかるとか……。
「そりゃー、きれいなおねーさんには逆らえないっス!」
うーむ。
魅了にかかる条件は、相手を魅力的と思うかどうか。
たぶんそれだけじゃない。隠されたもう一つの条件。
それは……性的な目で見れるかどうか。
そういうつもりがなくても、そう見れるかどうかってところか。
決してエロい目で見てたわけじゃない!
健全な反応である!
しかしこれを口に出すといろいろマズイ。
女性陣に怒られそうなので黙っておこう!
「まあ、操られて暴れなかっただけでもヨシとしようか!」
「そーっスね!」
リンが目を覚まし、ぼんやりと俺たちを見る。
「あれ……ゼンジさん?」
「目が覚めたな。よかった!」
「リン姉! よかっはっス!」
トウコは口をもごもごさせている。
「トウコちゃん……?」
「ん……なに食べてんだ?」
「魔石っス! ふー、元気になったっス!」
「おいっ! 拾い食いしてんじゃねー!」
何の魔石だ?
柄シャツのか? まだ消えてなかったのかよ!?
ということは吸血鬼の魔石だが……大丈夫なのか!?
「だ、大丈夫なの? トウコちゃん!」
「まずくないし平気っス! ちゃんと食べられるやつっス!」
味の心配なんかしてねーわ!
「なんともないか?」
「べつに何ともないっス!」
「ならいいが……まあ、とにかく疲れた。さっさと帰ろう!」
「りょー」
「はーい!」
よし!
家に帰ろう!
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