デバフ解除はデコレーションで!
「要はお前を見てどう思うかだ。美しくなけりゃいい。そういうことなんだハルコさん!」
「あー! そういうことですねぇ!」
カミヤが形のいい眉をひそめる。
「なにを言ってるのよ?」
つややかな唇が動いて、声が耳を打つ。
くっ……!
それだけで、じりじりと理性が吹き飛んでいく……!
ここはハルコさんに賭けるしかない!
急いでくれ!
ハルコさんはなにか考え込んでいる。
意図は伝わっているはず!
もう少し時間がかかるか……!
俺はなんとか言葉を続ける。
「お前の能力の破り方だよ。痛みで誤魔化したって、心の中に入り込んだ印象は消せない。無敵かよ!」
俺ひとりではどう頑張っても勝てない。
いや、男なら手も足も出ないのだ。
相性というか……そういう能力。
「そうよ! 男なら誰もが喜んでひざまずくわ!」
上機嫌にカミヤが言う。
唇が動いても、もう俺の心は動かされない。
それもそのはず――
唇は漫画のように誇張されたタラコ唇に変わっている。
頬には渦巻き模様が現れていて、コミカルだ。
さらに左右の眉毛が繋がって太い一本眉になる。
赤いドレスはよれよれのジャージに。
間に合った! 策が通じた!
俺の心を縛っていた魅了の効果が消えていく!
俺は吹き出す。
「ぷっ! 今のお前にひざまずくヤツはいないだろうけどな!」
オカダが腹を抱えて笑いだす。
「くっ……はっはっは! くだらねー! さんざん苦労して耐性スキルを身につけたってのによぉー!」
カミヤは困惑している。
「な、なに? なんなのよ!?」
カミヤの顔はもはや美しいとは言えない。
子供が雑に落書きしたような滑稽な姿だ。
これは当然、ハルコさんの幻である!
「デコってやりましたぁ! ざまぁみろですぅ!」
カミヤの肌が緑色に変わる。
ピンクの斑点まで追加され、もはや見る影もない。
幻が塗り替えているのは今現在の姿だけだ。
心の中、記憶の姿さえ魅了のきっかけになる。
だが滑稽な姿を見たことで、心の中の印象までも塗り替わっていく。
ある種の蛙化現象とでも言うか。
さめたわー。という感じである。
御庭が頭を振りながら言う。
「うっ……クロウ君、これは? ああ、ハルコさんだね!」
サタケさんとエドガワ君も魅了を脱している。
形勢逆転だな!
俺はカミヤに刀を突きつける。
「さて、覚悟してもらうぞ!」
カミヤが言う。
「な、なに? なんでそんな顔で私を見るの……!?」
おそらくカミヤは動揺しているのだろう。
だが、もはやどんな表情を浮かべているのかわからない。
ゴテゴテに盛られた顔のパーツのせいで表情が読めないのだ。
どんな顔をしてもコミカルになってしまう。
笑いのデバフにかかりそうだ!
オカダが笑いながら言う。
「ははっ! とりあえず、これまで搾り取ってくれたお返しに一発殴らせてもらうぜー!」
オカダが踏み込んで顔面へ鋭いストレートを放つ。
カミヤは驚いた様子で身を引くが、オカダのほうが速い。
「ちょっ――! 危ないじゃない!」
拳が顔面を捉えたに見えたが、当たっていない。
霧化して突き抜けたのだ。
拳が突き抜けた部分の幻がぼやける。
「あっ! すぐに直しますねぇ!」
ハルコさんが幻を修復する。
本来なら幻を手で振り払ったり、取り除くことはできない。
だがかぶっている相手が大きく動いたり形を変えるとズレるのだろう。
ウェブ会議や動画配信のアバターや背景がズレる感じに似てるかな?
オカダが言う。
「なんだよ。やっぱダメかー。まー、ちょっとは気も晴れたしオーケーオーケー!」
「ふ、ふざけないで! お前たちなにを見ているのよ! 早くなんとかしなさいよ!」
カミヤは大きな身振りで、仲間に助けを求めている。
その声には動揺が感じられる。
剣士が言う。
「はい……。いや……不利は明白! 撤退しましょう!」
これまで剣士は言われたことにすぐ従っていた。
だが今は、見捨てこそしないが別の意見を口にしている。
魅了が抜けてないのかもしれない。
俺たちと違って付き合いが長いから、心の中の印象を簡単にはぬぐえないのかもな。
「はぁ? 逃げるですって? この私が? こんな奴らに……!」
カミヤは悔しげにそう言った。
無事に逃がす気はないけどな!




