急募! 魅力に打ち勝つ方法!
ナギさんの停止能力は相手に直接触れる必要がある。
霧状に変化させているとはいえ、体に触れたことにはなるはずだ。
しかし、停止能力は発動しなかった。
気体――霧には効果がないのだろうか。
魅了の通じないナギさん。
停止の通じないカミヤ。
これは、お互いに有効打がないな。
膠着状態だ。
カミヤが御庭を指差しながら言う。
「イライラするわ! この女を殺しなさい! いえ、自分の頭を吹き飛ばすのよ!」
御庭はうつろな目で銃を装填する。
そして自分の頭へ銃を向け――
「いけない!」
ナギさんがその銃を掴む。
これで銃は作動しない。
「う……」
御庭が足に突き立ったナイフを引き抜く。
そのナイフを持つ手が――いや、全身の動きがぴたりと止まる。
ナギさんが御庭に触れ、動きを止めたのだ。
ナギさんがカミヤをにらみつける。
「……」
「あらあらぁ? 怒っちゃったのぉ?」
ナギさんは無言だ。
しかし怒っているのか、少し息が荒い。
感情的になるのはめずらしい。
いや、初めて見た。
なにも言わないナギさんから視線を外し、カミヤが言う。
「つまらないわね。もういい! 引き上げるわよ!」
俺はぼやけた頭を振りながら言う。
「ま、待て!」
「なぁに?」
カミヤが振り返った気配。
俺は目を閉じたままだ。
開ければ魅了に抗えない。
……いや、声だけでもかなりキツい。
呼び止めてみたものの、返事があるとは思わなかった。
案外話が通じるんじゃないか?
わざわざ敵対しなくても……。
いや、待て。
そんな相手じゃあない。
話してわかる相手であるものか!
くそ……精神のガードをやすやすと突破してきやがる!
さんざんかき立てたはずの怒りがいつの間に消えている。
嫌悪感が薄れていく。
精神に働きかける能力というのはとんでもないな……!
意志の力だけで抗えるような生易しい能力じゃあない!
「……教えてくれ。あんたたちはなぜ、こんなことをする?」
「なぜって、楽しいから?」
即答か。
まるで迷いなくそう答えるのか……!
「それだけか? そっちの剣士は収穫のために来たと言っていたぞ」
「ふん。口が軽いわね。でももう用事はもう済んだの。残念だったわね!」
「なにを手に入れた? ボスの魔石か?」
「うるさいわね! それより、お前たちこそ何しに来たのよ!」
カミヤの語気が強まると共に、魅了の圧力も高まっていく。
「うお――」
頭がくらくらする。
普通なら会話で時間を稼いで打開策を考えられる。
だが……ダメだ!
こいつに会話をしかけるのはマズい!
俺は目を閉じ、耳をふさぐ。
「耳をふさいでも目を閉じても無駄よ。私の魅力は肌で感じられるのよ!」
んな無茶な!
だがスキルや異能に常識など通じない。
肌で感じるというのはわからないが……ともかく力の根源は魅力である。
カミヤの魅力を前提として発動する。
目で見ても、声を聴いてもダメだ。
ならば目と耳を閉ざせば効果は消えるのか?
違う。
いくらか効果は弱まるが消えはしない。
この能力はもっと深い。
すでに心の中に入り込んでいるのだ。
まぶたの裏に美しい姿が浮かぶ。
残響のように声が耳元で再生される。
記憶は消せない!
一度その術にはまればどうにもならないのだ。
だが何か条件がある。
その証拠に女性には通じない。
ナギさんもリンも影響を受けていない。
だけどトウコには通じた。
これがカギだ!
実際にカミヤが魅力的かどうかは関係がない。
受け手がどう感じるかである!
魅力的だと感じるかどうか。
少しでも心を奪われれば術中に落ちる。
つまり、魅力さえ感じなければ効果は表れない!
だが――どう感じるかは制御できるものじゃない。
なにを見て美しいと感じるか。
好きか嫌いか。
そんなものは意識して変えられない。
嫌いな食べ物をどう調理したって食えないし、好きな食べ物を前にすれば自然と唾液が口の中にあふれてくる。
抗えるものではない。
怒りや痛みでごまかしても、気をそらせているだけにすぎないのだ。
「目を閉じても耳をふさいでもダメか……たいした能力だ」
「あら、やせ我慢はやめたのかしら?」
俺はうっすらと目を開け、視線を逸らす。
「あんたを魅力的だと思うだけで、術にはまる。心の中で思うだけでも……」
「そうよ。でも抗う必要なんてないの。身を任せれば楽に死なせてあげる」
俺の視線の先にはハルコさんとエドガワ君がいる。
エドガワ君の目と耳は幻でふさがれているが、この方法ではダメだ。
完全には防げない。悪化はしないにしても、解除できない。
俺はなおも言葉を続ける。
会話は少しかみ合わないが、伝わればいいのだ。
「ならカミヤ。お前の魅力がなくなればいい。そうすれば魅了は解ける」
「はぁ? 私の魅力は永遠に続くの。衰えることはないわ!」
カミヤはなにを言っているかわからないといった顔で言う。
人を馬鹿にしたような顔だが、やはり美しいと感じてしまう。
「要はお前を見てどう思うかだ。美しくなけりゃいい。そういうことなんだハルコさん!」
俺が語りかけていたのはカミヤではなく、ハルコさんだ。
言いたいことは伝わっただろうか。
「あー! そういうことですねぇ!」
ハルコさんがうなずく。
伝わったようだ!




