瞬間の剣戟!
「死んでもらう!」
「やなこったね!」
剣士が突っ込んでくる。
その動きは洗練されていてスキがない。
再び天井へ逃れることは難しい。
左右へ跳んでも追ってくるだろう。
それほどに鋭い踏み込み!
そして、そこから繰り出される斬撃もまた速い!
逃げ場を示してくれるはずの【回避】は沈黙したまま。
つまり、避ける余地がないということ!
剣の腕、体のキレ、無駄のない動き!
どう避けても、奴は方向修正して斬撃してくる。
かわせない!
ゆえに受ける!
だがそれは回避する以上に難しい。
集中だ。集中しろ!
極限の集中――
時間がゆっくりと流れ始める。
俺の首を刈り取るような鋭い斬撃。
もう目の前に迫っている。
――先ほど自律分身が斬られた瞬間を思い返す。
槍で受けたはずが、胸を斬られていた。
これも透過能力かとも思った。
だが、別の能力だ。
透過能力があるならオカダとの攻防で使うはずだ。
相手によって剣士も戦い方を変えているのだろう。
なぜ能力をオカダには使わず、自律分身には使う?
オカダと自律分身の違いはなんだ?
その違いは武器だろう。
武器で防御するってことだ。
剣士の能力は血液で剣を作ることだと思っていた。
しかし、それだけではない。
血を操って刀身を伸ばしていた。
傷口から吹き出す血で攻撃したりもする。
つまり血で剣を作るだけが能力ではない!
能力の本質は、血液を固めて武器にすることだろう。
血液は本来ならば液体だ。
ならば武器と交差するタイミングで能力を解除すれば、赤い剣は血液に戻る。
そして相手の武器を通り抜けた瞬間、再び血液を固める!
これで自律分身の防御をかいくぐったのだ!
タイミングは難しいだろう。
だが……奴の剣さばきの正確さを考えればできないことではない。
俺がこれから狙うのも、タイミングが勝負になってくる!
目前まで血の剣が迫っている。
その赤い刃へと刀を合わせる!
打ち合う瞬間、血の剣がゆらぐ。
液体となり、俺の刀を通り抜ける――
思った通りだ!
俺はタイミングを合わせ、用意していた術を発動する――
「――反発の術!」
俺の刀に斥力が発生する。
はじく力が、液状化して柔らかくなった赤い剣へと伝わる。
そして――赤い剣が血しぶきのように飛び散る!
「なにっ――!?」
剣士は驚愕して目を見開く。
俺はそのまま刀を振り抜き、剣士とすれ違う。
刀の峰が剣士の体を捉えるたしかな手ごたえ。
「うぐっ!」
剣士はバランスを崩している。
そこへ追い撃ちの一撃!
「もういっちょ! ――フルスイングっ!」
狙いは頭部!
刀の峰。全力の一撃!
剣士は短くなった刀でそれを受けようとする。
だが遅い!
刀の峰が頭部へめり込む。
そしてノックバック効果によって剣士の体が浮き上がる。
「がっ……!」
剣士は空中に投げ出され、受け身も取れずにテーブルをなぎ倒す。
人間なら死んでもおかしくない手ごたえだが……さすが吸血鬼!
まだ生きている。
だが無様に倒れ、武器も消えた。
今が追撃のチャンスだ。
だが――踏み込めない。
すぐそばにカミヤがいる。
剣士を守るためでもなんでもなく、ただそこに立っているだけ。
それでも、うかつに近寄るのはためらわれる。
視界に入っているだけでも集中力が削がれていく……!
カミヤが剣士を見下ろして言う。
「あらぁ? なにしてるのよ? さっさと片付けてくれる?」
そこには気づかいや心配などは微塵もない。
簡単なことを言いつけるような口ぶりだ。
それに対して剣士が答える。
「……はい。すぐに!」
立ち上がろうとしている。
杖のように剣を地面に突き立て、それに縋って身を起こす。
だがふらついてうまく立てない。
よし、効いている!
頭部へぶち込んだ打撃はしっかりと脳を揺らしていた。
吸血鬼だろうと体の構造は人間と変わらないようだな!
剣士に与えたダメージは大きい。もうさっきまでの動きはできないはずだ。
柄シャツもどうとでもなる。
カミヤに邪魔されず、なんとかトドメを刺す!
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