血液剣の男 VS ボクサー吸血鬼!
「ああもうっ! はやく倒れなさいよ!」
カミヤが次々と魔法を放つ。
ナギさんがそのすべてを防ぎ、無傷で立っている。
「……そんな攻撃で私は倒せません。腹が立ちますか?」
「きいっ! すました顔で、なんなのよ!」
ナギさんの言葉は攻撃を引きつけるための挑発だろう。
淡々としているが、頭に血を登らせたカミヤは簡単に引っかかっている。
引きつけてくれるのは助かる!
もし【魅了】をこちらに向けられたら、一気に戦線が瓦解してしまう。
一方、サタケさんは防戦一方。
追いつめられている。
ナイフをさばいている両腕は傷だらけだ。
防刃性のある服でも完全に防げるわけじゃない。
とはいえ、サタケさんは異能を持たない一般人だ。
高速移動で動き回る柄シャツの攻撃を受けて立っているだけでたいしたものだ。
しかし――
「もらったぁ!」
「ぐあっ!」
ナイフがサタケさんの肩口をえぐる。
深々と突き刺さったナイフがサタケさんの動きを鈍らせる。
「サタケ君!」
御庭が短機関銃を柄シャツに向ける。
軽快な発砲音。
だが柄シャツは残像を残しながら位置を変えている。
「はあ……ったく! 銃はずるいだろ!」
「使えるものは使う! それが僕らのやり方だからね!」
そう言って御庭は引き金を絞る。
柄シャツの姿がブレて、視界から消える。
「……んじゃ、こっちが先だ!」
背後から声!
また回り込まれたか!?
「うりゃあっ!」
俺は振り向きながら槍を振る。
だが空振り!
いや、本来なら当たるべきところがすり抜けたのだ。
槍を止めずに振り続ける。
大振りではなくコンパクトに!
槍を長く使うのではなく、中ほどを持つようにする。
威力より速度! 攻撃より防御!
「ちっ……!」
柄シャツは舌打ちをして俺の間合いから外れる。
離れた位置で呼吸を整えている。
オカダと血の剣士は戦いを続けている。
リーチ差と武器の速度もあって剣がオカダを刻んでいく。
だがオカダは、斬られながらも打撃を加えている。
オカダの拳が剣士の顔面を捉えた。
「くっ!」
「ははーっ! 効いたか? 俺はまだまだオーケーだぜ!」
オカダは楽しげに言い、ファイティングポーズをとる。
もう足もくっついたようだ。
フットワークを取り戻している。
華麗なステップとフェイント、そして拳による打撃。
オカダの体は大きくなり、威力はヘビー級だ。
一般的な戦いにおいては派手だと言える。
だが魔法や異能が飛び交う戦場では地味だろう。
オカダには特殊な攻撃スキルはない。
あるのは再生による耐久力だ。
斬られても打たれてもカウンターを狙っていく。
俺も戦ったからわかる。
防御を捨てた反撃というのは思ったよりも対処が難しいのだ。
攻める側はつねに気が抜けない。
精神力を削られるのだ。
普通は攻撃をするとき、相手のスキを狙う。
打てば当たるタイミングだ。
だが捨て身で来られると、そのタイミングがズレる。
しかもオカダの場合、やけくその攻撃とは違う。
ボクシングの動き。カウンター技術だ。
普通、攻撃されれば防御行動や回避行動をとるのが当然だ。
そうなれば、攻撃する機会が減る。
攻撃を受ければバランスが崩れるし、痛みが判断を鈍らせる。
食らう前提で突っ込んでいけるなら、体勢を保つこともできる。
そしてそれを可能にするのは持久力だ。
オカダは傷を癒やしながら戦い続けられるのだ。
一方で剣士の腕も悪くない。
いや、剣の腕だけ見れば俺より上だろう。
剣を伸ばし、リーチを変える。
ときには剣先を飛ばして間合いの外から攻撃したりもする。
剣であり、飛び道具にもなる。変幻自在の武器だ。
「らちが明かんな!」
剣士が戦い方を変えた。
普通の斬撃ではオカダを倒せないと悟ったのだろう。
腕を切り落とそうと狙っているようだ。
「そうかぁ? 楽しくなってきたじゃねーの!」
オカダは口の端をつり上げて好戦的な笑いを浮かべた。




