臆病者と裏切者は追放だ!?
「でも私のために死ぬなんて、あたりまえでしょ?」
「当たり前なはずないだろ!」
俺の言葉に、カミヤが不思議そうに言う。
「あたりまえなのよ。たとえばそうね。お前、私のために死んでくれる?」
「はい。お望みとあれば」
カミヤの近くで誰かが答える。
誰だコイツ?
無表情に、当たり前のように答えている見知らぬ男。
ああ、他にも吸血鬼はいたんだっけ。
カミヤのいる戸口のほうを視界に入れないようにしていた。
だから確認できていなかったが、その近くにいた奴だ。
――吸血鬼は残り六体。
――黒スーツ、扉を破った男は死んだ。
――柄シャツ、無表情のこの男……。
――そしてカミヤ。
――これで五体。
――あと一体いるのか……?
――知性の低い吸血鬼はたくさんいたが……。
――今、見える範囲にほかの吸血鬼は見当たらない。
――あるいはさっきの火魔法で焼き尽くされたか?
さらにカミヤが柄シャツに問う。
「あんたはできる? 誇らしいでしょ?」
柄シャツは熱に浮かれたように答える。
「はい……いつでも」
カミヤが満足げに笑う。
「ほらね? 私を愛しているならなんだってできるはずよ! それで幸せなんだわ!」
「異常だぞ……! 心を操って、それを強要するのか? そんなのは間違っている!」
誇らしい、だと?
名誉のため、大事なもののために戦うというのはわかる。
愛するもの、信じるもの……大切な誰か。
そのために戦う。そのために命を賭ける。
それは当たり前のことだ。
だがそれは――自ら望んでいれば、という前提でのことだ。
【魅了】で心を操り、従わせる。
そうして命を投げ出させることに名誉があるだろうか。
ない!
あってはならないことだ!
カミヤが言う。
「それができないならいらないわ! そうね。そこでこそこそ隠れている臆病者!」
カミヤが部屋の隅を指差す。
縮こまっていた保護した女性が、びくりと肩を震わせる。
「ひっ!」
「それからお前も――」
続いて、カミヤがこちらを指差している。
俺ではなく……背後を指差している?
俺たちの背後には誰も……いや、いる!
ぞっとしながら振り返る。
そこに立っていたのは案内役のオカダだ。
手錠で後ろ手に拘束していたはずが、外れている。
手のあたりをさすりながら、片足で立ち上がっている。
目を覚ましていたのか!?
サタケさんがしっかり拘束して鎮静剤まで打ったのだ。
すぐには目を覚まさないはず……!
混戦の中、警戒する余裕はなかったが――
まさか起き上がってくるとは!
ずっと機会をうかがっていたのか!?
くそ……。
これ以上は対応できないぞ……!?
カミヤが吐き捨てるように言う。
「オカダ! あんたなんかもういらないわ!」
「はぁ? 俺、なんかしたー?」
オカダがあっけにとられた顔で自分の顔を指差している。
「よくも私を裏切れたものだわ!」
「いや、俺は裏切ってなんて――」
……あれ?
会話の流れが想像と違う。
――記憶を読み取りながら俺は考える。
――オカダは裏切っていない。
――俺が幻のオカダになりすましただけだ。
――嗅覚の鋭い黒スーツはそれを見破った。
――だが、柄シャツは裏切ったと勘違いしたまま転送門へ逃げ込んだ。
「そもそもエサを連れてくるだけなのにいつまで待たせるのよ? パーティーに間に合わなかったじゃない!」
「いや、俺はちゃんと客を集めたし――」
オカダは困惑した顔で両手を広げて説明する。
だが、またも言葉は遮られる。
柄シャツが言う。
「集めたエサも一人でつまみ食いするつもりだったんだろ!」
「しねーし! お前らが集められないから俺が――!」
――たしかにオカダはしっかりと客を集めた。
――それが俺たち公儀隠密だっただけだ。
ここは俺たちを襲えと命令するところじゃあないのか!?
なぜか、オカダが責めらる展開!?
俺の困惑をよそに、妙な流れの会話が続く。
――どこかで聞いたような会話の流れだ。
――そうだ! 知ってるぞコレ!
――お前なんて追放だ! という流れじゃねーか!?
無表情の男が手にした赤い剣をオカダにつきつけて言う。
「俺たちが収穫している間、お前は客と遊んでいただけだ」
オカダが言う。
「いやいや……俺も戦いたいって言っただろ? 客引きなんかより、そっちのほうが楽し――」
無表情男はにべもない。
「再生能力しか取り柄のないお前なんぞ、戦いのジャマだ」
柄シャツも追従する。
「役立たずが! てめぇは前から気に食わなかったんだ!」
カミヤが追放よ! と言わんばかりにオカダを指差した。
「ともかくお前なんていらない! 顔も見たくないわ!」
あれ?
突然にオカダの追放劇が始まったんだが……。
いったい、俺はなにを見せられているんだ!?




