なにもしてないのに勝手に死んだの!
「あらぁ? まだ片付かないの?」
そう言いながら女吸血鬼が室内へと入ってきた――
マズイ!
目の端に女が入っただけだというのに……意識が持っていかれそうだ!
俺はとっさに目をそらす。
床につま先を叩きつけ、痛みを噛みしめて正気を保つ!
それに、もう一人……誰か部屋に入ってきた!
リンの魔法を生き延びた奴が他にもいるのか……!
確認したいが、じっくり観察するわけにはいかない!
俺はカミヤが入ってきた戸口に背を向けて、柄シャツに向き直る。
柄シャツの男は動きを止めている。
これは俺のために止まっているわけじゃあない。
ただカミヤだけを見つめ、ぼんやりと……いや、うっとりと見入っているのだ。
まるでその言葉を一言一句でも聞き逃さないようにしているみたいに。
だが俺にとっては好都合。
正直、魅了に抗いながら戦うのは厳しい。
ハルコさんが言う。
「あ、あなた……なんなんですかぁ!? トオル君を……皆をどうしたんですかぁ!?」
ハルコさんはエドガワ君を抱くように座り込んでいる。
エドガワ君に触れているのは、前から回り込んだからだ。
エドガワ君は目と耳はふさがれたまま大人しくしている。
もう【魅了】は解けたのか、カミヤのもとへ向かおうとはしていない。
だが状況はわかっていないはずだ。
カミヤの声。
「どうしたって、なにもしてないわよ?」
「はぁあ? 人を操って……仲間も死なせましたよねぇ!?」
――記憶を読み取りながら俺は考える。
――ハルコさんは【魅了】の影響を受けていない。
――俺たちよりも状況を把握しているかもしれない。
俺は痛みに意識を向けながら会話を拾う。
カミヤは不思議そうに言う。
「あらぁ? 私は操ってなんてない。勝手にやったのよ?」
当たり前のことだと言わんばかりだ。
ハルコさんの言葉に怒りがにじむ。
「勝手になんて、そんなはずないですよぉ!」
カミヤがせせら笑うように言う。
「はっ!? だから、勝手になんとかしてくれようとしたの。それで死んじゃったのはざーんねん! 私の役に立てないなんて残念な男だわ!」
――大男は自分の指が切断されても突破口を探った。
――壁を破ったものの、ワイヤーに突っ込んで死んだ。
――【魅了】のせいとはいえ、命がけの行動だったはずだ。
俺は叫ぶ!
「ふざけるな! お前のために死んだ仲間だろ!? 敬意を払ったらどうだ!」
「おかしなことを言うわね。あなたは役立たずに敬意をいだくのかしら?」
なんて奴だ……!
少しも分かり合える気がしない。
俺はすでにカミヤのほうを向いて話している。
視界に映るその姿はたしかに魅力的だが……内面はクズそのもの。
怒りが込み上げる! このクズ吸血鬼に魅力なんて感じるものか!
「お前……なんとも思わないのか!? 死んだやつに悪いと思わないのか!?」
「そうねえ。私の美しさがそうさせたというなら、それが罪かもね?」
美しさがそうさせる……だと?
話にならない!
……こいつに何を言っても無駄だな!




