たとえ炎に焼かれても……!?
ワイヤーで指を飛ばした男が叫ぶ。
「いてぇー! 痛えよカミヤさん! な、なにがあるんですか!?」
――この男はカミヤの仲間だろうが……能力の影響下にあるだろう。
――痛みがあっても、言われるがままに動いている?
――深く術に落ちると抵抗できないんだろうか?
――いや、抵抗せず受け入れているのか!?
――思えば俺もそうだった。
――抵抗しようなどとは考えず、ただ吸血鬼を求めていた。
――操られている自覚すらない。
――これは……思ったより強力な能力だ!
カミヤが言う。
「自分で考えられないの? ドアはダメなのよ。通れないなら、ほかにやりようがあるでしょう?」
「ああ……壁。そうですね。ブチ破れば通れるんですね! ウォォ!」
男の体が変異し、大きく膨れあがる。
トウコが銃を向け、発砲。
「そこをどけっス! うらあっ!」
「ッ――!」
「あらあらぁ? 誰かいるみたいよ? ほら、はやくなんとかしてよ」
「ああ、すぐになんとかするよ。カミヤさん――パワー……スマッシュ!」
突き出された拳がドア枠……壁にぶち当たる。
スキルの力を得た拳が壁を打ち砕き、吹き飛んだ破片が室内に降り注ぐ!
「うあっ――!」
破片に巻き込まれ、トウコが倒れる。
粉々に砕けた壁材がもうもうと埃が舞わせている。
トウコの姿が見えなくなる――
埃の立ち込める中、男は壁をぶち抜いた勢いで、ドアのあった場所へ――
「……あ?」
男は間抜けな声を残し、バラバラになって床に散らばる。
ワイヤーに切り裂かれたのだ。
壁を壊してもワイヤーは消えない!
ワイヤーはドアにひっかけているのではなく、ナギさんの異能で空中に停止しているのだ。
カミヤは死んだ仲間に対して平然と言う。
「あらあら。ばかねえ。死んじゃった?」
――あのとき俺は魅了と混乱で状況を把握できていなかった。
――死んだのはトウコではない。
――当然だ。死んでたまるか!
がれきの下敷きになったトウコがピクリと動く。
直接殴られたわけではない。ワイヤーに触れたわけでもない。
生きている。だが起き上がってこない。
もしかして気絶したのか?
――だがすぐに目を覚ますはず。
――できれば【魅了】も解けていればいいが……
本体は焦りの表情を浮かべ、混乱している。
まるで状況を把握できていない。
そこへ、尻もちをついていたリンが起き上がる。
その目に映ったのは――
――血だらけのがれきと、そこに埋もれたトウコの足だ。
「トウコちゃん! な、なんてことを――」
リンの顔が恐怖にこわばる。
頭を抱え、いやいやと首を振る。
そして両手を突き出して、叫ぶ。
「――ああっ! もうやめてぇー!」
リンが炎を放つ。
敵が燃える。苦悶の声を上げて叫ぶ。
炎は敵のみならず、店内を丸ごと熱していく。
過剰な火力がリンの腕を炙り、服が燃え上がる。
俺は叫ぶ。
「リン……! 力を抑えろ! 腕が……!」
「あああっ!」
ダメだ……声が届いていない!
さらに炎が荒れ狂う。
本体はリンの近くに座り込んで動かない。
だが不思議と本体の周りは炎が少ない。
リンが制御しているのか……。
それでも周辺は火の海だ。
御庭とナギさんも炎に巻かれている。
しかし、身じろぎひとつしない。
いや、動きがなさすぎる。
痛みに体をよじったり、逃げようとする動きがない。
ぴたりと動きを止めている――
――停止している。
よく見れば、服も燃えていない。
炎の中に居ながら、火傷一つ負っていないようだ。
これもナギさんの異能だろう。
無傷だ。
俺は背後に下がって難を逃れる。
それでも汗が噴き出るほどの熱。
それに息苦しくなってきた……。
地下にある店だ。酸素が減ってきているのかもしれない。
「ああっ……はぁはぁ……!」
リンの腕がだらりと下がり、炎の噴出が止まる。
その腕は赤々とした火傷に包まれていてむごたらしい。
肩で大きく息をしていて苦しそうだ。
うつろな目で、本体に近づいていく。
そして本体の頭を抱えるようにして、なにかを耳元に語りかける。
そのまま本体を抱くように座り込み、動かなくなる。
極度の疲労か、魔力の枯渇か……。
なんとかしてやりたいが、どうすることもできない。
くそ……ポーションがあれば!
治癒薬でも魔力回復薬でもいい……。
手元に状態異常回復薬があれば!
煙の立ち込めるVIPルームから声が聞こえる。
ぞっとするような声――
「ああ、さいあく! 服が焦げたわ!」
くそ……やれてない!
声の様子からして大したダメージはなさそうだ。
リンの全力の魔法だぞ!?
まさか、あれだけの火力に耐えるとは……!
自律分身パートが長い! もうちょっとだけ続くんじゃ!




