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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
五章 本業は公儀隠密で!

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精神に働きかける能力を客観的に把握しよう!

 自律分身の記憶が流れ込んでくる。

 混乱して()だった頭に冷水が差し込まれるかのようだ。


 自律分身が見た光景。

 その記憶を読み取るのだ。


 少し前にさかのぼる――



 ――本体()がVIPルームに突入し、小柄な女性と位置を入れ替えたときの記憶だ。


 本体()が戦闘を始める。

 ドア越しにリンとトウコが室内へ狙いを定めている。


 あちらは問題ないだろう。

 問題はこっちだ――


「ひィ……あぁ!」


 ――本体()が【入れ替えの術】で救出した小柄な女性だ。


 状況が理解できずに床にへたり込んでいる。


 サタケさんが後ろ手に手錠をかけ、彼女を安全な位置に移す。

 女性は抵抗せず、恐怖に震えているばかり。


 俺たちはまだ、彼女が無害だと信じてはいない。

 とりあえずの保護である。



 VIPルームの正面はリンとトウコ――遠距離攻撃組が陣取っている。

 俺たちは少し脇で警戒している。


 VIPルームから本体()の声。


「いまだ――撃てっ!」


 間髪入れずにトウコが射撃。


「ピアスショットっ!」


 リンは狙いをつけようとしていたが少し遅れる。

 瞬発力やエイム(照準)力はトウコが勝るのだ。


 リンは少し残念そうに次の敵を狙う。


 俺の位置から敵はよく見えない。

 リンとトウコも敵を撃ちにくい位置取りのようだ。



 御庭が叫ぶ。


「クロウ君! 次が来るよ!」


 新たに出てきた敵を尻目に、本体()が走ってくる。

 スライディングでワイヤーをくぐり抜け、無事生還。


 【反発の術】で滑る練習はしていたが……姿勢の制御が難しいのだ。


 実戦で決めるとは、やるな!

 さすが俺!


「おおーっ! 店長、かっけーっス!」

「ゼンジさんすごいです――」


 トウコに続いてリンもバリケードから身を乗り出す。

 バリケードを跳び越えた本体()が言う。


「二人とも、隠れろ!」


 その背後には追いすがる吸血鬼たち。

 奴らの目にワイヤーは見えていない。


 ワイヤーに触れて次々とバラバラになる吸血鬼たち。

 バリケードを越えた肉片が俺たちのそばにも降り注ぐ。


 血の滴るそれが小柄な女性の目の前に落ちる。


「うゥ……はァ……はァァ!」

「おい……大丈夫か?」


 (自律)の言葉に彼女はほとんど反応を見せない。

 息を荒げ、嗚咽を漏らすばかりだ。


 尋常(じんじょう)な様子ではない。

 大丈夫か……?


 彼女の顔からは、様々な感情が揺れ動いているのが見て取れる。

 恐怖と渇望……そして嫌悪感だろうか?


 落ちた血と肉は、しばらくして塵に変わる。


「うう……」


 すると彼女はほっとしたような、それでいて残念そうな吐息を吐く。



 本体()と御庭の会話によれば、彼女は吸血鬼のなりかけだ。


 部屋に満ちていた血の匂いが薄れてきたからか、彼女は少し落ち着いたようだ。

 今は弱弱しくうめきながら、こちらを見上げている。



 そのとき――視界の端で転送門が揺れる。

 ここからでは、転送門の端がギリギリ見えるくらいだ。


 (自律)は叫ぶ。


「転送門が動いた! 来るぞ!」



 (自律)の言葉に皆がVIPルームに視線を送る。


 本体()は真剣な様子で転送門に目を向けている。

 そして現れた何者かを見つけたように、目を見開く。

 その動きが不自然に(にぶ)る。


 御庭もそうだ。

 冷静な面持ちが緩み、口がだらりと開く。


 なんだ?

 どうしたっていうんだ?


「あらぁ? 出来損(できそこ)ないどもはどこに行ったのかしら?」


 ぞっとするほどに美しい声。

 声を聴いただけで美しい姿を想像できるほどだ。



「ひっ!」


 喉を引きつらせるような短い叫び声を発したのは保護した女性だ。

 その場から逃れようと身じろぎするが、立ち上がれない。


 何をそんなに怖がっているんだ……?



 疑念を抱きながら視線を戻す。


 本体()はぼんやりとした表情で動いていない。

 トウコが構えた銃をだらりと下ろす。

 御庭が指で目頭のあたりを押さえて、頭を振っている。


 何かおかしい……!

 この違和感はどこから来る……?



「血の匂いがするわね。まさか残らずやられたというの? 死ぬならせめてダンジョンの(かて)になればいいのに。どこまでも役立たずだわ!」


 本体()たちは声のするほうへ顔を向けている。

 まるでスキだらけの様子で、じっと見入っている。


 ああ……(自律)もこの美声の主の姿を一目見たい――


「ゼンジさん! ゼンジさん! だ、大丈夫ですか!?」


 リンが呆けた本体()を揺さぶっている。

 その切迫した声に、(自律)ははっと我に返る。


 頭がぼんやりとして……声に引き寄せられそうになっていた。

 これは……声のせいか!?



 リンの呼びかけに本体()が応える。


「う……あ……? どうした?」


 その受け答えはまるで寝ぼけているかのようだ。


 自分自身の間抜けな姿を客観的に見ると……どうも妙な気分だ。

 いくら俺でも、戦闘中にあんな状態になることは考えにくい。


 ――つまり、普通の状態ではない!


 なんらかのスキルか異能をかけられているのか!?


 そうだ……攻撃されているんだ!

 俺たち全員!

 部屋丸ごとが影響を受けている!


 そう考えてみると、(自律)も意識がはっきりしない。



 トウコも、御庭も……サタケさんもか!?


 リンはなんともないようだ。

 ナギさんは御庭になにか語りかけている。

 二人は正常のように見える。


 ハルコさんが言う。


「ど、どうしちゃったんですかぁ……?」


 エドガワ君はふらふらと前に出ようとしている。

 ハルコさんが手を伸ばすが、掴めない。


 エドガワ君もダメか……!?

 幸い、ハルコさんは無事らしい。



 リンがあせったように言う。


「しっかりしてください! どうしたんですか……トウコちゃんも!」


 トウコはバリケードから身を乗り出すようにしている。


「うへへ……」


 その表情はへらへらと緩みきっている。

 トウコも術にはまっている!



 御庭が鋭く言う。


「皆! あの女を見てはいけない! これは……精神に働きかける能力だ!」


 精神に働きかける能力!

 おそらくは魅了!


 見るだけで効果が出てしまう。


 これはまずい……!

 本体()や御庭は()()から見ている。

 とりわけ本体()はいつも通りじっくりと()()してしまった!


 御庭もそうだ。

 状況を把握しようと、目を凝らせば凝らすほど術にはまる!


 (自律)は敵の姿を直接見ていないから効果が弱い!



 御庭は脂汗を浮かべ、顔をゆがめている。

 それもそのはず、御庭の足には自分で突き立てたナイフが突き立っている。


 痛みで意識を保っているのだ!



 (自律)は手にしていた槍を振り上げる。

 そして自分の足――小指のあたりに石突(いしづ)きを振り下ろす!


 自分が分身だという認識のおかげで、ケガを覚悟でぶちかませる!


「……ッッツ!」


 痛てぇ!

 タンスの角に容赦なく小指をぶつけたような激痛が(自律)を襲う。


 だが、おかげで頭がはっきりしてきた!



 (自律)は言う。


「目だけじゃない! 声もダメだ……! 魅入(みい)られるぞ!」


 本体()は反応しない。

 (自律)の言葉は届いていないようだ。


 くそ……(自律)がなんとかしなくては!

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[一言] フラグ回避成功…?
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