赤いドレスの女!?
転送門から何者かが現れる。
俺は目を凝らして油断なく観察する。
現れたのは美しい女だ。
自信にあふれた笑みを浮かべ、室内をゆっくりと見まわす。
赤いタイトドレスに身を包んだ豊満な体。
深いスリットから大胆にのぞいている太ももがなまめかしい。
ロウソクのわずかな明かりのなか、肌があやしく輝く。
美女はゆったりと周囲に視線を送る。
そして赤々と濡れた、形のいい唇が動く。
「あらぁ? 出来損ないどもはどこに行ったのかしら?」
その声はぞっとするほどに美しい。
歩くたびに豊かな長い黒髪が揺れる。
その一本一本が最高級のシルクのようだ。
瞳は赤く輝き、どこでも深い。
「血の匂いがするわね。まさか残らずやられたというの? 死ぬならせめてダンジョンの糧になればいいのに。どこまでも役立たずだわ!」
美女が大げさに両手を振って嘆く。
大きく開いたドレスの胸元が揺れる。
知らず知らずのうちに視線が吸いつけられている。
肌は白く、透き通るようだ。
皮膚の下の血管すら透けて見えそうな、柔らかな肉。
めまいがしそうなほどに――
いや……何をしている。
忍べ! 俺!
「――さん! ゼンジさん! だ、大丈夫ですか!?」
「う……」
声が遠く聞こえる。
リンが俺の肩を掴んで揺さぶっている。
頭が痛い。
まるで二日酔いのような……悪い夢を見ているような気分だ。
なにをしていたんだったか……?
「あ……? どうした?」
「しっかりしてください! どうしたんですか……トウコちゃんも!」
トウコがどうかしたのか?
俺はうつろな瞳でトウコを探す。
いた。バリケードにもたれかかるようにして美女を眺めている。
「うへへ……」
その表情はへらへらと緩みきっている。
御庭が鋭く言う。
「皆! あの女を見てはいけない! これは……精神に働きかける能力だ!」
御庭は美女から目をそらしている。
額には脂汗が浮かんでいて苦しげだ。
精神……?
どういう意味だ?
なにを言っているのかよくわからない。
いや、そんなことはどうだっていい。
それよりも彼女だ。彼女はどうしている?
状況を確認――そう、確認しなくては!
俺は熱に浮かされたようにVIPルームに視線を戻す。
美女が長く美しい指でこちらを指さしている。
何人か男もいるようだが……それはどうでもいい。
「あらぁ? そこに誰かいるわね。お前、見てきて!」
「はい……」
美女の声が鼓膜から脳に突き刺さるように響く。
まるで耳に息を吹きかけられたかのようにむずがゆい感覚。
首筋に鳥肌が立つ。
思わず俺は声を漏らす。
「おお……」
もっと近くであの声を聴きたい。
いや、直接あの肌に触れ――
「ゼンジさん!」
「……ん」
バリケードを乗り越えかけていた俺をリンが引き留める。
背後から抱き着かれて身動きが取れない。
邪魔だな――!
俺は拘束を力任せに振りほどく。
「きゃっ!」
驚いたようなリンの声。
俺は自由になる。
トウコはもうバリケードを越えて、よろよろと歩いている。
「うへへぇ……おねーさん……いま行くっス!」
トウコは夢遊病のようにVIPルームへ向かっていく。
その向こう側、入口に大柄な男が立っている。
くそ、彼女が見えない! 邪魔だ!
入り口をふさぐんじゃない!
大柄な男が言う。
「このへんにドアがあったはずなんだが……」
そう言いながら男は幻で覆われた戸口に手を伸ばす。
壁に触れようと伸ばした男の指が幻を突き抜ける。
そして、ぴんと張られたワイヤーに触れる。
「――ッ! あああっ! 指が……俺の指がぁぁ!」
「うるさいわね。早くなんとかしなさいよ!」
甘やかな声が騒がしい男の声を遮る。
ああ、その声! もっと聞かせてくれ!
俺は熱烈に彼女の声を聴きたいと願った。
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