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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
五章 本業は公儀隠密で!

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袋のネズミの行進!?

 転送門から次々と吸血鬼が現れる。

 俺は皆のいる部屋へと戻ってきた。



 バリケードの陰からリンが顔を出す。


「ゼンジさんすごいです――」


 リンが賞賛の言葉をかけてくれようとしている。

 だが、それはあと!


 俺は急いでバリケードを跳び越えつつ、リンとトウコに言う。


「二人とも、隠れろ!」


 俺も姿勢を低くして身を隠す。


「えっ!? はい!」


 リンは驚きながらも素早くしゃがみ込む。

 膝を抱え込むようにして小さくなっている。


「あっ! 来るっス!」


 トウコが驚きを顔に貼り付け、ドアの先を指差す。

 トウコの目にはドアに殺到する吸血鬼たちが見えていることだろう。



「シャァァ!」


 吸血鬼の声が近くなってくる。

 俺が通り抜けたことで幻の壁でふさがれている出口に気づいたのだろう。


 こちらの会話ももはや小声ではないから、音も伝わっている。

 幻の壁は完全な防音ではない。



 トウコが余裕の顔で言う。


「でもワイヤーがあるから大丈夫っス!」

「だから伏せるんだよ……!」


 俺はトウコの服をひっぱり、バリケードの陰に引き込む。


 ワイヤーで敵は死ぬ。

 だから安全?


 違う!

 突っこんでくる勢いはそのままだ。


 つまり……!



 トウコが隠れると同時――吸血鬼の悲鳴が上がる。

 ワイヤーに突っ込んだ吸血鬼が輪切りのように寸断される。


「ギッ――」

「カハッ――」


 悲鳴というには短く途切れた声。

 声を出すための喉――あるいは肺が切り裂かれたのだ。



 バラバラになった首が、胴が、手足が部屋へ転がり込んでくる。

 ぼとぼと、どすんと生々しい音をたててバリケードにぶつかる。


 飛び散った破片の一部は勢い余ってバリケードを飛び越えていく……!

 うわぁ……エグいな!


「うえぇー!? バッチいっス!」

「その感想はどうなんだ。トウコ……」


 体の断片が次々とぶつかるが、バリケードはびくともしない。

 ナギさんが異能で停止させているから無敵である。


 床に血だまりができあがる。

 その血はVIPルーム側にも流れ込んでいく。



「血ダァー! 血の匂ィィ!」


 吸血鬼たちは狂喜の声をあげる。

 バリケードを背に座り込んでいる俺からは見えないが、顔は愉悦にゆがんでいることだろう。


 勢いよく部屋に飛び込み、フルーツカッターに押し込まれたトマトのようにバラバラになっていく。

 幻の壁が視界を遮っているから後続の吸血鬼は仲間の末路に気づかない。


 まるで断崖絶壁に向かって走るレミングの死の行進のようだ!

 幻と停止のコンボ……強すぎる!



 御庭が言う。


「さて、ひと段落着いたようだよ」


 吸血鬼の声や気配はもうない。

 ここから見える限りVIPルームの中は無人だ。


 入ってきた敵はすべて倒したことになる。

 えげつない威力だなぁ……!


「さすがナギさん。すごいな……」

「……いえ」


 ナギさんは言葉少なく答える。

 かなりの戦果だが喜ぶ様子はない。


 それもそうか。

 こんなものを見て喜ぶのはヤバいヤツだけ。


 あまりにも凄惨(せいさん)

 あまりにもグロい!


 俺もちょっと引いたわ!


「おーっ! 全部やっつけたっス! すごー!」


 トウコは笑いながらバリケードの外側をのぞき込んでいる。


 いたよヤバいやつ!

 トウコは冷蔵庫(ゾンビダンジョン)のせいでグロ耐性が限界突破しているのか……!?


 将来が心配というか、現在進行形でヤバい!

 俺は頭を抱える。



 リンは膝を抱え、顔をうずめて縮こまっている。

 涙目で俺を見上げながら、俺の服をひっぱる。


「うう……お、終わりましたか?」

「ああ、とりあえずな……だがこれで終わりじゃないはずだ」


 今現れたのは知性の低い吸血鬼ばかりだ。

 逃げた柄シャツのようにマトモに会話できるタイプは出てきていない。


 本命はこの後。

 まだ油断はできない。



 室内はむせ返るような血の匂いで満ちている。

 床に広がった血や肉片がだんだんと塵になって消えていく。


「うう……」

トオル(エドガワ)君大丈夫ですかぁ?」


 青い顔をしてうつむいているエドガワ君の背中をハルコさんがさすっている。

 これが普通のリアクションだよな。うん。


「警戒しろ。まだ終わっていない……げほっ」


 そう言いながらサタケさんは油断なく銃を構えている。

 サタケさんが銃を向けているのは最初に出てきた小柄な女性だ。


「うゥ……はァ……はァァ!」


 後ろ手に手錠をかけられ苦しそうにもがいている。


 目からは涙が流れ、口からは唾液があふれている。

 その口元から小さな牙が覗いている。



 俺は御庭を見る。


「御庭、彼女はどうなんだ?」


 御庭はサングラスを指でつまみながら言う。


「やはり彼女はほぼ人間だと思う。そうだな……吸血鬼になりかけているというところかな?」


 なりかけている、か。


 弱弱しい嗚咽を漏らしている彼女から脅威は感じない。

 だがまぎれもなく吸血鬼の牙を持っている。


 手錠で拘束しているのはかわいそうにも見えるが、正しい判断だ。

 助けた相手に後ろから噛みつかれてはたまらない。


 先ほどの様子から会話はできそうだが、今は無理だ。


 俺は御庭に言う。


「なら、あとでゆっくり話を――」



 自律分身が叫ぶ。


「転送門が動いた! 来るぞ!」



 ――揺らめく転送門から現れたのは妖艶(ようえん)な美女だった。

ネズミのレミングは意図した自殺はしないらしい。

ダメ絶対!

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― 新着の感想 ―
[一言] トウコはともかく御庭さん神経ふっといなぁ… 相当に修羅場慣れしてるのかなやっぱし
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