勝利の証と正当な報酬! 頑張ったら報われよう!
斃れた巨大コウモリはそのまま塵となって散っていった。
俺はそれを感慨と……敬意をもって見送る。
生成された魔石を――勝利の証を空中でつかみ取る。
「――よしっ! 長かったが、これで五階層ボスも倒せたぜ!」
それにしても、激戦だった。
やっぱり、コウモリは強敵だな。
強敵と書いて友と読むやつだ!
誰にも、雑魚モンスターだなんて言わせない。
そんなこという奴がいたら、ちょっと戦ってみて欲しい!
しかし……。どうやら俺は、戦うのが好きみたいだ。
ケガをするのはイヤだ。
痛いのもイヤだ。
危険な目にはあいたくない。
基本的に、俺は慎重なつもりだ。
だが――戦う行為そのものは、俺を強く惹きつける。
瞬間瞬間を、刻み付けるような感覚。
たまに起こる、スローモーションのような意識の加速。
極限の集中。選択の連続。
厳しい状況を打開したあとは、脳汁がドバドバでる。
ああ、生きてるなって思うんだ。
一秒一秒を、しっかりと生きていると感じる。
それを実感したいから、俺は戦う。
俺にとって重要なのは、相手に勝つこと、倒すこと……だけじゃない。
大切なのは、その過程だ。
まずはしっかり準備をして、対策を練る。
それでも、戦いの中では思いもよらないことが起こる。
それに対応することが、次につながっていく。
こうして、どんどん、できることが増えていく。
俺は、これが楽しくてたまらない!
――さて、今回の戦利品。
巨大コウモリから手に入れた魔石は、これまでの大コウモリのものと大きな変わりはない。
黒っぽい色味の小さな石だ。
他のコウモリの魔石に比べて巨大なわけじゃない。
すこし、輝きが違うような気もするが……誤差の範囲だな。
混ぜてしまったら、わからなくなってしまうだろう。
「しかし……このダンジョンのドロップアイテム地味じゃね?」
まあ、今に始まったことじゃないけど。
ボスを倒した時ぐらい、大量のアイテムがあふれ出してくるような演出が欲しい。
ほとんど使い道のないゴミアイテムでもいい。
せめて、こうザクザクと……。
頑張ったんだからさ。いっぱい手に入った感じ味わいたいわけよ!
給料は分厚い茶封筒で手渡しされたいじゃないですか。
基本給だけ口座に振り込んどきましたー。みたいなさ。冷たいじゃない。
実際には山ほどの戦利品があっても困るんだろうけど。
うん、魔石でよかった、よかった。
そうに違いない!
たぶん、モノリスに入れればボスコウモリのドロップ品と引き換えられるはずだ。
……はずだな? そうだよな?
「これ、モノリスに入れたら普通のコウモリと同じだったりして……」
コウモリの魔石一個分の価値だったら、泣いちゃうよ。
俺、頑張ったらちゃんと褒めてもらいたいタイプです。
<経験が一定値に達しました。レベルが上がりました!>
「来たっ! 頑張ったらご褒美! コレコレ、これよ!」
俺の思いが届いたのかもしれない。
久しぶりに聞く、天の声さんのアナウンスだ。
これでレベルは9だ。
スキルポイントが増えて、残り5ポイント。
取りたいスキルも増えてきたところだ。
これで前に進める。
【忍具】を取れば、忍者道具全般の扱いがよくなる。
そうなれば、高いところからワイヤー移動も狙っていける。
さらなる機動力が見込めるぞ!
何もワイヤーだけじゃない。
【忍具】は忍者道具全般を強化してくれるはずだ。
使う道具次第で活用方法は幅広い。
今でも結構多彩な道具を使っているからな。
試すのが楽しみだ!
さっきの戦闘中はワイヤー移動は見送った。
勢いでチャレンジしてみようかと頭をよぎったが……。
失敗して落下したらシャレにならない。
練習していないことは本番ではやらない。
これは俺のモットーだ。
安全第一、生きて帰ってこそのダンジョン攻略なんだ。
運にばかり頼っていては、いずれ無理が出る。
「というわけで、スキルはじっくり考えてから取ろう……。――さて、この先はどうなっているんだ?」
気になるのはダンジョンの先だ。
ボスは倒した。ほかに敵はいない。
だが、五階層を制覇したわけじゃない。
「進んでみるか。これまで通りなら、くだり階段があるはずだ」
ここが最下層ということはないだろう。
まだ五階層だ。
まるでラスボスと戦ったような満足感はあるが……。
ここが終点のはずはない。
――しばらく進んだが、敵の姿はない。
かわりに俺の前に見えてきたのは――
「扉だ。やっぱり、さらに奥があるな!」
それは、入り口と同じような天井まで続く巨大な扉だ。
進むか? 戻るか?
飲んでおいた丸薬も、しっかり効果を発揮したようだ。
魔力も回復した。
気力も充分。いける!
「いざ! オープン!」
巨大な扉が押し開かれる。
ほとんど触れるだけで、扉は開く。
……まるで、ダンジョンが俺を呼んでいるかのようだ。
この先には何が待ち構えているのか。
さらなる強敵が待ち受けるのか。楽しみだ。
あるいは持ち帰れないほどのお宝か。歓迎だ。
ゆっくりと押し開かれていく扉の先には――
なんとなく最終回っぽい雰囲気。でも続きます!
一章としての区切りはもう少し!




