撫で斬りはスラスラで!
転送門から異形の吸血鬼が現れ、女性を襲おうとしている。
まず動いた一体が小柄な女性に飛びかかる。
「シャァァ!」
「ひぃッ!」
女性は逃れようとして転倒。
立ち上がろうとするが、腰が砕けてしまっている。
よし。そのまま動くなよ――!
狙いを定めて――
「――入れ替えの術!」
幻の壁とワイヤーごしに、瞬時に位置が替わる。
俺は女性のいた場所へ。
そう、すぐ目の前に醜い吸血鬼が迫っている位置だ!
だが準備はできている!
俺は術をかける前に振りかぶっていた刀を横薙ぎに振る!
「うりゃあっ!」
「ウゲァッ!」
顔面に【フルスイング】をぶち当て、飛びかかってきた吸血鬼を空中で打ち返す!
ごろごろと転がった吸血鬼が壁にぶち当たる。
しかし追い打ちをかける余裕はない。
次の二匹が迫っている!
「血ィィ!」
「アタシのォ!」
急に現れた俺に対し、警戒する様子はない。
それどころか顔に浮かべているのは醜い喜び――あるいは食欲だ!
するどい爪の一撃。
それをかいくぐり、脇下に刀を通す。
流れるようにすれ違い、背後へ。
回り込みながらさらに背中へ一撃。
吸血鬼は悲鳴を上げ、前のめりに倒れる。
「ウゥっ!」
倒れる吸血鬼が邪魔になってもう一体は向かってこれない。
もちろん俺は計算して動いている。
吸血鬼は大きく回り込むように動く。
その隙に俺はバックステップで距離を取る。
イラついたように突っ込んでくる吸血鬼。
「ウァァッ!」
「おっと!」
俺は刀の切っ先を向ける。
これは牽制。
相手は足を止め、牙をむいて唸る。
「シャァァ!」
さすがに刀に突っ込んでくるほど頭は悪くないようだ。
だが、足を止めた場所が悪かったな!
「いまだ――撃てっ!」
俺は壁の向こうへ合図する。
吸血鬼が立っているのは致命的な場所だ。
味方の射線の通る位置へ誘導したのだ。
間髪入れずに幻の壁の向こうからトウコの声がこたえる。
「ピアスショットっ!」
銃声。そして閃光。
光の尾を引いた弾道が吸血鬼の脳天を撃ち抜く。
声もなく吸血鬼が塵になって消える。
俺は魔石を空中でキャッチし、次の敵に向き直る。
最初に壁にぶち当てた吸血鬼が立ち上がった。
床に転がしたほうもまだ生きている。
「ウゥゥ!」
「アァ……!」
御庭が叫んでいる。
「クロウ君! 次が来るよ!」
俺は目の端で転送門を確認する。
ざわざわと、黒い水面が揺らめいている。
そこから――さらに三体の吸血鬼が現れる。
「ちぃっ! キリないな!」
今度は俺の立ち位置が悪い。
このままでは囲まれてしまう。
さらに、ここにいては味方の射撃をさえぎってしまう。
戻らねば!
俺は幻で隠れたドアへ向けて走る。
なりふり構わぬ全力疾走!
そこへ吸血鬼が立ちふさがる。
掴みかかろうと腕を伸ばしてくる。
「ウアァ!」
「ふっ――!」
俺は息を吐き、姿勢を低くする。
だが勢いは緩めない!
足を先に投げ出すようにして――座り込む!
床に体を擦りつけるようにして滑る!
いわゆるスライディング!
ただ滑っているだけではない!
下肢に【反発の術】をかけ、床との抵抗を減らす!
その状態で刀を相手に向け、刃を立てる。
すれ違いざまに撫でるように斬り裂く!
反発スライディング斬りだ!
「ギャァアっ!」
血しぶきを上げる吸血鬼をあとに残し、俺は幻の壁へと滑っていく。
リンがあっと声を上げる。
「ゼンジさん! 前っ!」
「このまま突っ込む!」
目の前に壁が迫る――!
幻だとわかっていても迫力があるな!
そしてワイヤー!
足元には張られていないとわかっていても怖い!
破壊不能、移動不能の停止したワイヤーに接触すればバラバラ死体のできあがりだ。
俺はさらに姿勢を低く、背中を床に擦り付けるようにして滑っていく。
――通過!
視界が開け、皆のいる部屋に戻る。
術を解いて減速。
バリケードにぶつかるギリギリのところでぴたりと止まる。
トウコが興奮しながらバリケードから顔を出す。
「おおーっ! 店長、かっけーっス!」
うまくいった!
だが、戦いはまだ始まったばかりだ!
後続が来る!




