敵か味方か。人間か怪物か……?
悪性ダンジョンへ続く転送門から何者かが現れる。
現れたのは一体だけ!
転送門は静まり、動かなくなった。
後続は来ないようだ。
なんだ? なぜ一体だけ……?
疑問を振り払い、油断なく相手を観察する。
動きは遅い。
こちらに気づいてはいない。
床に膝をつき、うずくまるようにしている。
呼吸は荒く、肩が大きく動いている。
表情は影になっていて見えない。
服は血で赤く染まっている。
小柄な女性だ。
女性がうめき声をあげる。
「うゥ……ああっ……!」
コイツは……どっちだ?
人間か? 吸血鬼か!?
もしも人間ならば攻撃をしかけるわけにはいかない。
爪や牙に変化はなく、見た目は人間と変わらない。
人間のふりをした吸血鬼かもしれない。
判別がつかないぞ……!
まさか、俺たちを揺さぶるために狙ってきたのか!?
トウコが銃口を向けながら、俺に問う。
「店長、まだっスか!?」
「まだだ……!」
トウコの腕なら簡単に頭を撃ち抜ける。
距離も近いし相手の動きは鈍い。
だが、それはさせられない。
俺は御庭の様子をうかがう。
御庭の異能なら見分けられるんじゃないか……そう期待している。
なんらかの知覚的な能力のはずだ。
だが御庭は眉をひそめたまま。
浮かんでいるのは判断しかねるような、難しい表情。
「御庭、どっちだ?」
「判断が難しいな……少し時間が欲しい」
そう言うと御庭はじっと女性を観察する。
一目見ただけでわかるような能力じゃないらしい。
女が言う。
「うゥ……だれかァ……」
女は両手を前に突き出すようにして、よろよろと歩いている。
乱れた服の首元から血が滴っている。
出口のない部屋に困惑しているのか、女はきょろきょろと周囲を見回している。
その背後――転送門が揺らめく。
なにか出てくる――!
転送門から次々と新たな人影が乱入してくる。
今度は三体!
出てきたのはすべて女性だ。
口元は血に汚れて、目はぎょろぎょろと血走っている。
女性の細い体には不似合いな筋肉が腕を筋張らせている。
そいつらが、口々に甲高い叫び声をあげる。
「はァァ! 血ィ……血をヨコセェ!」
「足りナイ足りナイよォー!」
するどい牙の生えた口元から赤茶色の液体がしたたり落ちる。
ショッピングセンターで出会った牙女に似た姿。
「ミツケタッ!」
その一体が走り出す。
吸血鬼が狙いを定めたのは――最初に現れた女性。
よろよろと歩いていた女性の顔が恐怖にゆがむ。
その口元がかすかに動く。
女性が声を振り絞る。
「……た、たすけて!」
助けを求める震えた声。
これが演技なら……。
俺は言う。もはや声は抑えていない。
「御庭! どっちだ!?」
「彼女はほぼ人間だよ、クロウ君!」
彼女はほとんど人間かもしれないが、吸血鬼でもある。
不完全な吸血鬼なのかもしれない。
吸血鬼になれなかった人間なのかもしれない。
敵か味方か。人間か怪物か。
その線引きは曖昧だ。
助けるべきか、倒すべきか――
迷ってる場合じゃあない!
助けるしかないだろう!
「助けるぞ! 援護を頼む!」
「はいっ!」
「りょ!」
俺の言葉に、リンとトウコはすぐに反応した。




