ありあわせの材料で準備しよう!
トウコがじれたように言う。
「店長、のんびり話してていいんスか?」
「と言ってもな。敵が来るのを待つしかない。今のうちにできる準備をしておけ。弾丸を造るとかさ」
「んー。そうするっス!」
「俺も自律分身用の武器を作っておこう! ――忍具作成!」
材料はそこら辺のイスと魔石だ。
作ったのは木の槍である。
室内で使うので長さは控えめ。
長さ二メートルの手槍である。
「おお、いいじゃないか! 吸血鬼には木の杭だよな!」と自律分身。
「心臓を突き差せば敵は死ぬっス!」
「吸血鬼じゃなくても胸を貫けば死ぬけどな!」と俺。
リンが自信なさげに言う。
「あの……。十字架を作ったら効くんでしょうか?」
リンはオカルトやゲームには疎い。
さすがに吸血鬼の弱点は知っていたらしい。
有名な弱点だ。
日光、銀、ニンニク……そして十字架。
試す価値はある。
「どうだろうな? 一応、それっぽくしてみるか!」
【忍具作成】を再度発動。
槍の先端に横木を付け足す。
これで穂先が十文字になった。
木材なので、十文字槍の特徴である突くときに斬る効果は期待できない。
だが先端をとがらせているので横殴りにしたとき突き刺せる。
「これで十文字手槍……いや、十字架手槍だ!」
「おーっ! 強そうっス!」
「ありがとうございます! 吸血鬼さんに効くといいですねー」
御庭が目を輝かせる。
「おお! さすがクロウ君! 僕にもなにか――」
「御庭さんは前に出てはダメです」
ナギさんに叱られて御庭は肩を落とす。
「うん。だよね……」
「ナギさんの言う通りだ。御庭はおとなしくバリケードに隠れて指示してくれ」
ナギさんが即席のバリケードを作っている。
テーブルを倒して並べただけだが、異能で停止させれば無敵の盾になる。
御庭が言う。
「クロウ君の隊は自由に戦ってほしい。僕らはここから銃撃する」
「じゃあリンとトウコも隠れて攻撃してくれ」
「はーい」
「リョーカイっス!」
こちらの準備は整った!
いつでも来い!
――と身構えてみたが……来ない。
吸血鬼が出て来ない。
時折ザコモンスターが湧くだけ。
あっさりとトウコの弾丸に変わった。
「うーん。遅いな……」
「私たちがいるから、出てきにくいんでしょうかー?」
「ヒマっス! 早くかかってこーい!」
御庭が言う。
「無策に突っこんでくるほど相手も甘くはない。こちらはこちらで準備しておこう」
「ここにワイヤーを張ります。気を付けてください」
ナギさんが唯一の出入り口であるVIPルームのドアにワイヤーを仕込む。
異能で停止させたワイヤーだ。
触れればすっぱりと切れる凶器である。
首、胸、腰あたりの高さをカバーしている。
スキマはあるが充分だろう。
ナギさんはワイヤーの端を持ってバリケードの陰に戻る。
異能を発揮するためには触れ続ける必要があるようだ。
ハルコさんが言う。
「入口に幻をかけますかぁ?」
「いいね。ワイヤーも見えなくなるしな」
こちらからは見えるが、あちらからは見えない壁。
マジックミラー壁で入口を覆う。
できるかぎりの準備はした。
はやく来い!
じっと転送門を眺める。
――動いた!
転送門がゆらぐ。
中から何者かが現れる。
来た――!
俺は相手に聞こえないように小声で言う。
「来たぞ。構えろ! ……まだ撃つな!」




