仕切り直し!
「……しまった!」
「一匹逃げたっス!」
柄シャツの吸血鬼は転送門へと逃げ込んでしまった。
高速移動のようなスキルだろうが……妙な動きだった。
「すまん。止められなかった」
御庭が言う。
「クロウ君のせいじゃないさ。なにかの能力で移動したようだよ」
「まったく、吸血鬼ってのはなんでもアリなのかよ」
「僕ら異能者もクロウ君たちダンジョン保持者も、能力はそれぞれ違う。吸血鬼もそうなんだろう」
「ああ。だけどまずいな。ダンジョン内に俺たちの存在がバレた」
逃げた吸血鬼は仲間に知らせるだろう。
俺たちがいると知って、ここに現れるはずだ。
「それは仕方がないと割り切ろう。どっちにしろ彼らはダンジョンから出てくる」
「ああ、そうだな。収穫が済んだと言っていた。つまりボスを倒したんだ」
「収穫ってなんスか?」
「トウコちゃん。たぶん、ボスさんの魔石を手に入れることじゃないかなー?」
魔石というのは推測だ。
奴らはダンジョンでなにかを手に入れることを収穫と呼んでいる。
吸血鬼のウラドはボスを倒してタネを刈り取ると言っていた。
御庭が言う。
「うん。ボスを倒したならダンジョンはいずれ消える。その前に出てくるしかないのさ!」
「そうだな。問題はどれだけ残っているかだが……」
リンが言う。
「でも、もう一人はやっつけましたよ!」
すすけた床の上に魔石が転がっている。
これは黒スーツの吸血鬼のものだ。
俺は魔石を拾い上げる。
俺はリンとトウコに言う。
「そうだな。二人ともナイスだった!」
一体は逃げたが、もう一体は倒せた。
ほとんど何もさせず瞬殺。
悪くない戦果と言えよう。
「ゼンジさんがいい場所に敵を動かしてくれたからですよー!」
「余裕っス!」
御庭がぱちぱちと手を叩く。
「よくやってくれたね、皆! もともといた吸血鬼はあと五体になる。あとはどれだけ増えているかだね」
「店内にいた客が変化するところを見たが、全員が吸血鬼になるわけではなさそうだ」
「バケモノみたいになったらハズレっス!」
「姿が変わらなかった人は、まだ人間なんでしょうかー?」
俺は転がったままのオカダを指さす。
「でも吸血鬼になっても人間に近いヤツもいるよな?」
ハルコさんがうなずく。
「そうですよねぇ……」
オカダは変身してもマッチョになっただけだ。
バケモノ感はない。
リンとトウコが戦っていた魔法を使うヤツもそう。
牙が目立つくらいで、ほとんど人間だ。
バケモノじみた見た目になる場合もある。
路上で戦ったヤツや、さっきの黒スーツがそうだ。
見た目だけで吸血鬼か人間かを判断するのは難しい。
御庭が言う。
「店に入った人数はそう多くはない。仮に全員が吸血鬼に変異したとしても、勝算は充分にあるとみている。ここで迎え撃とうと思うけど、どうかな?」
ダンジョンの中に入るのはリスクが高い。
外で待ち伏せていれば、必ず出てくるのだ。
他に出口はない。
ならば――
「ああ。いいと思う! 吸血鬼を外に放つより、ここで倒してしまいたい!」
逃がせばまた人を襲う。
次の被害を出さないためにもここで叩く!
リンとトウコがうなずく。
「はい。私も大丈夫です!」
「袋のネズミ叩きっス!」
サタケさんが銃を手に言う。
「俺たちも領域内でなら戦える。げほっ……。残って戦うが、すぐに退ける場所に陣取らせてもらう」
エドガワ君とハルコさんもうなずいている。
御庭が言う。
「うん。撤退は各自の判断に任せるよ。そうだ、ハルコ君――」
「な、なんですかぁ?」
ハルコさんは少し不安げに聞き返す。
御庭は親指を立てて、いい笑顔を浮かべる。
「さっきの幻はとてもよかった! さすが変化の術使いだね!」
「ああ、おかげで不意打ちできたな!」
俺も親指を立てる。
ハルコさんが照れ笑いを浮かべる。
「えへへ。ありがとうございますぅ! ざまぁみろですねぇ!」
思えば、素直にハルコさんが褒められるシーンはレアかもしれない。
サタケさんが言う。
「エドガワもいい位置取りだったぞ!」
「あ、ハイ……」
サタケさんはちゃんとメンバーの様子を見ているな。
俺も親指を立てる。
さっきの場面で、エドガワ君はさりげなくハルコさんとサタケさんの前に移動していた。
エドガワ君がいるだけで、周囲に安全地帯ができあがる。
攻撃はされなかったが安全を確保していたことは評価したい。
ともかく、方針は決まった!
撤退も追撃もしない。
ここで迎え撃つ!
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