各個撃破は変化の術で!
VIPルームの扉は閉じてあり、まだ開かない。
あちらから俺たちの姿は見えない。
中では二人の吸血鬼が判断分身を見て騒ぎ始めている。
「おい……なんとか言えや! おぅコラ!」
「なんだコイツ! なんで突っ立ったままなんだ?」
判断分身には侵入者が入ってきたら手を打つよう条件を付けてある。
それ以外は棒立ちで何の反応もしない。
脅されようが凄まれようが、微動だにしないのだ。
このままでは怪しまれてしまう。
というかすでに十分に怪しい。
俺はVIPルームの戸口から姿をさらす。
室内には二名の男。
一人は派手な柄シャツ。
もう一人は黒スーツに身を包んでいる。
二人は判断分身をにらみつけるようにして取り囲んでいる。
俺の姿を見て、柄シャツの男が言う。
「おっ? オカダ。コイツはなんだ? ビビっちまって動けねえのか?」
「……」
俺は無言で歩み寄る。
二人は警戒していない。
俺は今、幻をまとっている。
とっさにハルコさんが被せてくれたのだ。
手鏡で見せてくれたが、見た目はオカダそっくり。
うまくダマせている。
柄シャツの男が判断分身の頬をぺちぺちと平手でたたく。
「もしかしてぶっ壊しちまったのかぁ? まあ、味は変わらねぇからいいけどよ」
柄シャツは判断分身が恐怖で硬直していると思ったのだろう。
狙い通り、相手は俺を仲間だと勘違いしている。
だが幻で声は誤魔化せない。
柄シャツが俺に向かって言う。
「なあオカダ。聞いてんのかよ? もう中の人間は食いつくしちまった! カミヤさんがはやく残りを連れて来いってさ! 収穫も済んだし、そろそろ撤収だ!」
収穫だと?
たしかショッピングセンター事件で、ウラドもそんな言葉を口にしていた。
俺は曖昧にうなずく。
「……」
「おい、ほかのエサ共はどうしたんだ? さっさと食っちまおうぜ! あんま待たせるとカミヤさんに殺されるぞ! どうしたってんだ?」
相手の表情には疑念が浮かび始めている。
「……」
俺は手をくいくいと動かして二人を招く。
転送門から引き離して、できればVIPルームの外へおびき出したい。
ダンジョン内に逃げられては面倒だ。
退路を断ってから集中攻撃をしかける。
そうしてダンジョンから出てきた敵を各個撃破したい。
そういう考えだ。
これはあくまでも俺の考えだ。
急な状況で、皆と打ち合わせる時間はなかった。
だがリンとトウコなら俺の意図を汲んでくれるだろう!
黒スーツの男が訝しむように、俺の顔をじろじろと眺める。
「なあ。なんで黙ってんだ?」
声は変えられない。
といって黙っているのも限界だ。
俺は怪しまれる覚悟で口を開く。
なるべく声をオカダに寄せる。
「ああ……準備はできてる。オーケーだ」
俺はそう言いながら皆のいる部屋を手で示す。
演技はかなり怪しいが……。
一人がこちらに近づいてくる。
さあ、ついてこい――!
黒スーツの男が鼻をひくつかせながら言う。
「おお、そっちからうまそうな匂いがするな! たくさん居るじゃねーか!」
部屋の奥にいる公儀隠密の面々……その匂いを嗅ぎ取ったのだ。
こいつ、鼻がいいのか……!
一方、柄シャツ男は棒立ちの判断分身に食らいつこうとしている。
「じゃあ俺はこっちの奴を味見して――」
まずい!
攻撃を受ければ分身はすぐ塵になって消える。
黒スーツが鼻をひくつかせ、俺に顔を近づける。
「ん……? オカダお前……。匂いが……しねえ!」
幻は俺の匂いを遮断してくれる。
幻の壁に隠れたときは獣の鼻さえ誤魔化した。
だが匂いを遮れるだけだ。
変装した相手の匂いを発しているわけじゃない。
つまり無臭!
コイツはそれを嗅ぎ分けたんだ!
バレた!




