VIPルームのクリアリング!
俺は店に戻る。
パッと見た限り、出る前と変化はなさそうだ。
リンが手を振っている。
「おかえりなさーい!」
「戻ったぞー。様子はどうだ?」
トウコが白い歯を見せて笑う。
「暇なんでVIPルームの中も確認しといたっス!」
自律分身が補足する。
「ちゃんと慎重に調べた。危険はなかったぞ」と自律分身。
まあ、問題ないと思っていた。
さんざん騒いでも出てこなかったのだから敵がいる可能性は低い。
「部屋の中はどうなってたんだ?」と俺。
「誰もいなかったっス!」
「豪華なお部屋で、ダンジョンの入口もありましたー!」
「おっ? それは直接見ておきたいな」
「じゃあご案内しますー」
俺たちはVIPルームのドアを開け、中をのぞき込む。
室内には誰もいない。モンスターも湧いていないようだ。
豪華な内装で飾られているのだが、どこかおどろおどろしい。
ロウソクの炎で影が踊っている。
俺とリンはVIPルームに入る。
リンが部屋の奥を指さす。
「暗くて見えにくいですが、あそこのスーツケースが入り口です!」
部屋の奥、豪華な内装に似合わないスーツケースがある。
開いた状態だ。
その中には黒いもやが渦巻いている。
ダンジョンの入口、転送門だ。
「安っぽいスーツケースだな。この部屋には似合わない」
「もしかしたら外から持ってきたものかもしれませんねー」
スーツケースは箱だ。
ダンジョンの器にできる。
冷蔵庫ダンジョンのように持ち運べるダンジョンってことか?
「悪性ダンジョンでも移動できるのか……?」
「どうなんでしょう? うーん。でも、悪性ダンジョン領域があるから……」
「だよな? 領域の外にダンジョンの入口を出すなんてムリだろ?」
このスーツケースを閉めたらどうなるんだ?
中に吸血鬼や人間がいるはずだ。
管理者権限でダンジョンの転送門を移動させる場合、中に人がいるとできない。
同じルールだとしたら、今の状態では移動できないはずだ。
「動かせないんじゃないでしょうか……」
「でも試すわけにはいかないな。転送門に触れてしまいそうだ」
「あぶないですね! やめましょう!」
「試すにしても、中に入るにしても、御庭たちが来てからだな。いったん戻ろう」
「はい」
「一応、転送門は見張っておこう。中から吸血鬼が出てくるかもしれない」
判断分身を配置して、見張りを命じる。
敵が現れたら手を叩いて知らせる人力警報器である。
VIPルームから戻り、俺は疑問を口にする。
「あとはモンスターだが……姿が見えないな?」
今やこの店は悪性ダンジョン領域内だ。
当然、モンスターが湧くはず。
トウコが言う。
「オオカミみたいなモンスターが出るけど、たいしたことないっス!」
リンが部屋の隅を指さす。
「あ、ちょうど出ましたよ! オオカミさんです!」
「ほう……大型犬みたいだな」
現れたのは灰色の毛並みの四足獣だ。
大型犬ほどのサイズ。
今目の前にいる獣は動物の狼に似ている。
見たことはないが……実際のオオカミに近いのではなかろうか。
明らかな違いは目が赤く輝いていることだ。
大きいとはいえ、草原ダンジョンのツノシカよりは小柄だ。
ショッピングセンターの黒い獣は大きく裂けた口を持ったバケモノだった。
それほどの威圧感はない。
「じゃあちょっと様子見で……分身の術!」
俺はオオカミの前に分身を出す。
すぐに食いついてきた!
「グルルァッ!」
オオカミが分身に飛びかかる。
分身の腕に鋭い牙が食い込んで引き倒される。
一撃で分身が塵になるほどの攻撃力はない。
もちろん、生身で食らったら大ケガだけど。
攻撃についてはだいたい分かった。
「――じゃあ、耐久力はどうかな!」
オオカミは分身に噛みついている。
スキだらけだ。
素早く踏み込み、オオカミに刀を振り下ろす。
口を離して逃れようとするが、こちらが速い!
刀がオオカミを深く切り裂く。
「ギャィィ……!」
あっさりと塵に変わるオオカミ。
耐久力もそれなりだ。
「ふーん。たしかに、たいしたことないな」
「そーっスよね! おかげで弾丸も増えるっス!」
トウコが手の上に弾丸を並べている。
待っている間に狩ったようだな。
「湧く速度はどうなんだ?」
「ゆっくりだな。一匹ずつしか湧かないから対処は簡単だ」と自律分身。
「ほう」と俺。
そう言いながら魔石を回収する。
悪性ダンジョン領域では魔石はすぐに消えてしまうからな。
オカダはまだ気絶したまま転がっている。
やはり足は生えていない。
切り離した足首は床に転がったままだ。
まだ塵になって消えないんだな。
これはオカダの一部――所有物だからかな?
持ち主が認識している品物は消えない。体の一部もそうなのだろう。
これ、くっつけたら繋がるんだろうか……。
とりあえず、オカダの手の届かない場所によけておこう。
触りたくないので刀の峰で壁のあたりに寄せておく。
外へ続くドアが開く。
入ってきたのはエドガワ君だ。
後ろにいるのは御庭たちだ!
今度こそ来たな!




