格闘技×吸血鬼!?
オカダがちぎれかけた左腕をぶら下げながら言う。
「おお、痛てェ痛てェ! やってくれた――なァッ!」
素早い踏み込みからの右フック。
大振りに見えるが、速い!
だが避けられる!
俺はかがみこんで拳をくぐり抜ける。
強く踏み込み、全身のバネを利かせて伸びあがる。
俺は腕を振り上げ、アッパーカットのように腕を振る。
逆手に握った刀がオカダの胸板を切り裂いていく。
このまま喉を切り裂けば終わりだ!
オカダの口元がにやりと笑みをかたち作る。
なにかヤバい――!
「くらえやっ!」
太い右腕のかげ――俺にとっての死角から、なにか来る!
左腕!
ちぎれかけた腕を叩きつけようとしている!
このまま攻撃を続ければヤツの喉を切り裂ける。
だが、こちらも回避できない。
――狙いは相打ちか!?
攻撃は中止! 回避に専念する!
だが、かなり無理な姿勢からの回避になる!
間に合うか――!?
体をひねって胸をそらす。
さらに足元に反発力を生み出し、無理やり踏み切る。
全身の筋肉が軋む。
関節が悲鳴をあげる。
限界を超えた集中が俺の意識を加速させる。
スローモーションのようにゆっくりと流れる時間の中、ヤツの腕が迫る。
鼻先を腕がかすめ、風を切って唸る。
ギリギリでかわした!
それでもオカダは動きを止めない。
ちぎれかけた腕が勢いのまま床に叩きつけられる。
ぐしゃり、と肉が床を打つ鈍い音。
傷口から大量の血液が噴き出す――
「血の目潰しだァッ!」
俺はすぐさま腕で顔をガードする。
だが間に合わない!
「くっ――!」
とっさに目を閉じる。
顔に熱くぬめる液体が降りかかる。
わずか数瞬――わずかな時間だ。
コンマ数秒の攻防の中で目を閉じる恐怖。
【危険察知】がびりびりと反応している。
――なにか来る!
奪われた視界の中で【回避】と【危険察知】を頼りに背後へ跳ぶ。
ぶん、と攻撃が空を切る音。
俺は着地しながら袖で目元をぬぐう。
うっすらと目を開ける。
なんとか見える!
オカダが楽しそうに言う。
「おおっ! 今のをよけるのかよ!?」
「そんな腕でよくやるな……!」
オカダの腕はずたぼろになっている。
なんとかちぎれずにぶら下がっているというありさま。
「ははは! こんなもんかすり傷ってやつだ!」
「どうみても大ケガだろ! バケモノかよ!?」
「まあ吸血鬼だからな! もっとも、俺は特別だが!」
そう言うとオカダが腕を持ち上げて見せる。
すると傷口に赤い霧がまとわりついていく。
寸断された筋肉が繋がり、肉が盛りあがる――
「再生だと!?」
「これくらいの傷、ぜんぜんオーケーさ! ほら、もっと来い! 楽しもうぜェ!」
胸の刀傷も同じようにふさがっていく。
くそ! とんでもない再生速度だ!
加えて攻撃も素早いし、威力もある。
文字通り捨て身のカウンターを狙ってくる……。
こっちは食らったらひとたまりもない。
これは厄介だぞ!?
俺は目だけで戦況を確認する。
リンとトウコもそれぞれの相手と戦っている。
援護は期待できない。
ハルコさんはへたり込んで動けない。
当たらないとわかっていても、怖いものは怖いだろう。
エドガワ君はハルコさんを守るように立ちながら銃を抜いている。
オカダは小刻みにステップを踏みながら両腕をあげて構えている。
「来ねえならこっちから行くぜェ!」
オカダが踏み込む。
速い! 一瞬で距離が詰められる。
踏み込みの加速を乗せた左ジャブが放たれる。
回避を――
いや――ムリだ!
俺はとっさに腕を上げる。
かろうじてガードが間に合う。
だが重い!
防いだ腕がびりびりとしびれ、鈍い痛みが襲う。
「っつう!」
俺は背後へ跳んで距離を取る。
しかし追いかけるようにオカダがステップを踏む。
軽やかな足さばき。
逃げきれない!
それはわかっている。
俺はのけぞるようにして右ストレートをかわす。
オカダが叫ぶ。
「沈めやっ!」
追撃の左。
先ほどと似たコンビネーション――!
ならば見切れる!
俺は体をひねって横回転する。
打ち下ろされたオカダの拳に刀の峰をぶち当てる。
「うりゃああっ! フルスイングッ!」
刀の峰が左拳を打ち砕き、押し返していく。
オカダが叫ぶ。
「おおあっ!」
吹き飛ばされたオカダが背後のテーブルをなぎ倒す。
再び距離がひらいた。
オカダが飛び起き、驚いたように砕けた拳を見る。
「なんだァ……? なんかやってんなァ!?」
「タネもしかけもある手品だよ! そっちは格闘技かなにかか?」
俺の左腕も無傷ではない。
鈍い痛み。折れてはいないだろうが、握力がほとんどない。
ここは会話で時間を稼ぎたい。
「ボクシングをちょっとな。お前もなんかかじってるんだろ? ゼンゾウよぉ!」
「忍術を少し! タネもしかけもない忍術を見せてやるぜ!」
俺は自分とオカダの前に分身を生み出す。
同時に背後へも分身を配置。
再生を終えた拳を構え、オカダが言う。
「へえ? 分身ってやつか? おもしれぇ!」
「第二ラウンドだ! 行くぞ!」
俺は痺れたままの左腕を握る。
格闘技を使う吸血鬼か……。
ただのモンスターとは歯ごたえが違う!
ご意見ご感想お気軽に! 「いいね」も励みになります!




