ウェルカムドリンク不可避説!?
「じゃ、とりあえず乾杯しよっか!」
「……ああ」
俺はウェルカムドリンクを前に考える。
これは店に入る前から想定していた状況だ。
最初に出される飲み物に、なにか混ぜられている。
飲みたくはない。
しかし、これを打破する方法がないのだ。
いろいろ考えてみたが、俺の術ではどうにもならない。
そもそもダンジョン外で使えるスキルは限られる。
たとえば【忍具収納】。一枠目が手拭いなら液体を収納できる。
だが今、一枠目は刀だ。
それに、俺も分身も視認されないほどの速度では動けない。
誰にも気づかれずに酒を消すことはできない。
分身ならどうだ?
酒を飲むにしろ、どこかに隠すにしろ、相手にも周囲の一般人にも見えてしまう。
結論。
これは飲むほかない。
事前に覚悟を決めていたが、怪しげな液体を目の前にするといい気はしない。
失踪者や噛みつき魔は、繰り返し怪しいクスリを摂取して中毒になっていった。
成分に違法性はない。
一般的な薬物ではなく吸血鬼の血液である。
エドガワ君とハルコさんの様子から見て、一回の摂取なら問題ないだろう。
それに……実のところ二人は飲んでいないと踏んでいる。
もし飲んだとしても、すぐに行動不能にはならないだろう。
妙な効果があるとしてもリカバリーポーションを飲めばいい。
多少のリスクはやむを得ないと割り切る!
グラスに手を伸ばす。
すると俺の手に文字が浮かび上がる。
これはハルコさんの幻だ!
――飲まずに下に捨てて
なるほど!
幻影でごまかしてくれるんだな!
きっとハルコさんたちもこうしたんだ。
やはり、酔ったように見えたのは演技だった!
俺が期待していたのはこれだ!
幻影のトリックで逃れているのでは、と考えていた。
ハルコさんありがとう!
できないことは仲間を頼る。
それでいい!
ハルコさんを見ると、小さくうなずいている。
頼りになるね! ありがたい!
リンは手元を見て、少し驚いた表情。
幻の文字を読んでいるのだろう。
わかってるね!
トウコを見る。
グラスをかかげて無邪気に笑っている。
わかってないっ!
なにか合図を――
案内役のオカダがグラスをかかげる。
「じゃあ今日の出会いを祝して、カンパーイ!」
「かんぱいっス!」
「か、乾杯!」
合図を送る余裕はない!
俺は乾杯の音頭に乗り遅れないように、素早くグラスを倒す。
赤い液体が足元の絨毯にしみこむ。
オカダの顔色をうかがう。
気づいた様子はない。成功だ。
リンの様子を見る。
俺と同じような動作をしているようだが、少しぼやけて見える。
幻で動作が上書きされているのだ。
合図する余裕はなかったが、トウコはどうだ――
トウコが勢いよくグラスを置く。
「ぷはーっ! 案外おいしいっス!」
うわぁ……普通に飲んでるし!
ダメだろ!?
案内役が俺をじっと見ている。
「浮かない顔してどうしたんだ、兄ちゃん?」
「いや……ちゃんとノンアルコールなんだよな?」
「はははー! ノンアル、ノンアル! オーケーだろー?」
トウコがぐっと親指を立てる。
「これ、トマトジュースっスね!」
そういう問題じゃねーよ!
「そうか……」
「かたいこと言わないで楽しんでくれよ! もうすぐVIPルームに案内するからさ!」
とりあえず怪しまれてはいない。
これで店内の様子をじっくり観察できるぞ!
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