いくべきか、いかざるべきか……?
店内の音声が届く。
案内役の声だ。
「待たせたね! ハルちゃん、エっちゃん!」
ハルコさんはハル、と名乗っているようだ。
「どうでしたかぁ?」
「オッケーオッケー! 特別にVIPの枠をあけさせたよー」
ハルコさんが明るい声を出す。
「すごーい! さすがオカダさんですぅ!」
オカダというのが案内役の名前か。
オカダが言う。
「ははは。ハルちゃんみたいなかわいい子のためならノープロブレムだよ!」
リンが言う。
「ゼンジさん。ハルコさんはどうして危ないとわかっているのにVIPルームに行こうとするんでしょうか?」
「調査のためだけど……ちょっと急ぎすぎているよな」
トウコが言う。
「うまくダマせているから調子に乗ってるんスよ!」
「トウコちゃん……言い方」
「だって、ハルコさんは目立ちたがり屋っス!」
「うーん。確かにそういうところあるよな。最近の仕事は地味だって言ってたし……」
ハルコさんはもともとツイスタのヘビーユーザーだ。
ブランド物に身を包んだ写真をアップしたりして、それなりの人を集めている。
ちょっとしたインフルエンサーのような人である。
出会ったときは命の危険がある状況だったから、そう見えなかっただけだ。
異能を活かして活躍できる状況になれば、調子に乗っても不思議はない。
実際ここまでうまくやれている。
しかし、ハルコさんはVIPルームが悪性ダンジョンになっていることを知らない。
イヤホンの向こうで、ごそごそと動く音。
俺の端末にメッセージが届く。
「おっ! エドガワ君からだ」
「エっちゃんはなんて言ってるんスか?」
俺は文面を読み上げる。
「どうしますか? このままでいいでしょうか――だってさ」
エドガワ君は不安に思っているようだ。
リンが心配した顔で言う。
「このままじゃ危ないですよね?」
「そうだな……」
俺は考える。
このまま調査を続けるのは危険だ。
悪性ダンジョン領域があることがわかっている。
吸血鬼かもしれない店員が約十人。
吸血鬼は簡単に倒せる相手ではない。
だから強行突破する策は取れない。
なら、二人を店から出す?
待ち合わせていた友人が到着したことにして……。
ハルコさんたちに出てきてもらう?
二人一緒に店を出れるか?
案内役は二人を逃すまいとするだろう。
どちらかが残されるか、案内役もついてきてしまうかもしれないな。
ならどうする……。
やはり俺たちが行くしかない。
俺は言う。
「ハルコさんに合流しよう。リン、メッセージを送ってくれ」
「はいっ!」
リンが携帯電話を操作する。
俺もエドガワ君に返事を送る。
イヤホンからハルコさんの端末の通知音。
エドガワ君の端末らしきバイブ音も聞こえる。
「あっ! 友達ですぅ! 楽しくてお返事忘れちゃってましたぁ!」
「オッケー! すぐ来れるんなら友達も呼んじゃっていいよ」
トウコが言う。
「あれっ? 簡単にオーケー出たっスね!」
「たしかにVIPの枠、ゆるゆるだな! 飛び込みでも入れるじゃねーか!」
「でも、よかったですねー。断られちゃったら大変でしたー」
ハルコさんからリンに電話がかかってくる。
「あ、レンちゃん? もう近くまで来てますよねぇ? 場所は――」
「はい! わかりましたー」
俺は御庭にメッセージを送って状況を簡単に説明する。
返事はすぐには来なかった。
ふむ。取り込み中か。
「あ、イヤホンは取ったほうがいいよな?」
「ゼンジさんもトウコちゃんも見えちゃってますねー」
「リン姉は大丈夫っスね。髪で隠れて見えないっス!」
「じゃあリンはイヤホンを残して、俺たちは取ろう」
「リョーカイっス!」
「はーい」
店の前へ移動しながらハカセに通信する。
「ハカセ。これから店に入る。なにかあれば連絡くれ」
「あいよー」
俺たちは店へ続く階段を降りていく。
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