ダンジョンの移動! その条件とは?
「リン、転送門を移動するための条件をおぼえてるか?」
「はい! 人間が入れそうな大きさで、自分だけの箱ですねー!」
「そうだ。だから管理者権限を持ってるヤツがいれば、ダンジョンを動かせる」
「好きな場所に出せたら便利なんスけどねー」
「まあな。どこにでも出せるわけじゃないし、今ここでできるわけじゃない」
「そうですねー」
自分だけの箱――自分だけが開け閉めする密閉空間のことだ。
この制限が少し難しい。
いろんな制約がある。
まず、サイズ。
マッチ箱のように小さいものではダメ。
人間が入れそうなサイズ感が必要だ。
実際に入れる必要はない。
タンスや机の引き出しのように、平べったいものでもいい。
通り抜けられる幅があればいいとでもいうか……。
自分のアパートでいろいろと試してみた。
扉がついて開け閉めする閉じた空間であれば、だいたいうまくいった。
冷蔵庫だろうがタンスだろうが問題ない。
ここまでは普通の条件だ。
俺の部屋、俺の持ち物に対しては成功する。
だけど人の部屋となると話が変わってくる。
リンの部屋で試したところダンジョンは移動できなかった。
リンの許可があってもダメ。
そこでタンスの一部を借りてみた。
いわば間借りした状態だ。
その引き出しはリンも開けないようにする。
そうして数日。
何度か試したところ転送門の移動に成功した。
部屋の所有権だとか、実際に住んでいるかは関係ない。
自分以外が開け閉めしない箱であればいいのだ。
他人の目に触れない密閉空間。
これが転送門を移動させるための条件だ。
「――というわけで、俺のダンジョンを街中や店内に出すことはできない」
「不便っスね!」
「だけど店の関係者が、店内に設置することは可能だろう」
「個人用のロッカーとかでしょうか?」
「鍵付きのロッカーとか、消火器ボックスならダンジョンの器として使えるな」
トウコがひらめいた顔で言う。
「あっ! わかったっス! あの店クラブダンジョンなんスよ!」
「クラブダンジョン……? なんだそりゃ?」
ぜんぜんわからんが。
「つまり! 店のドアがダンジョンの入口なんスよ!」
「で、ダンジョンがクラブ風になってるって? んなアホな!」
豪華な内装があって、食べ物や飲み物が出てくるのか?
都合いいダンジョンだ。モンスターもいないのかよ!?
んなわけない!
「ええと……ダンジョンに普通の人は入れませんよねー?」
「そうだな。まあ、発想は面白かったけどな。店がダンジョンなら客を連れ込めないぞ」
「それに……音声が届いているから、やっぱりお店はダンジョンじゃありませんねー」
「これまでの失踪事件では通信がとぎれていたからな」
被害者は悪性ダンジョンか、ダンジョン領域に入ったと考えられる。
ダンジョンに機械を持ち込んでも使えない。当然、電波も途絶える。
トウコが残念そうに言う。
「いいセンいってると思ったんスけどねー」
「いや、ぜんぜん」
俺はやれやれと首を振る。
トウコが手をあげる。
まだなんかあるのか……。
「じゃあじゃあ! ダンジョンに客を連れ込む方法を思いついたっス!」
「ふむ。一応言ってみろ」
どうせ微妙な答えだろ?
「殺してからダンジョンに入れちゃえばいいっス!」
「うわぁ……。トウコ、発想が怖いぞ!?」
言い方どころじゃないよ!?
「生きている人はダンジョンに入れないから……ええと、生きていない状態にしてから……」
リンが言い淀む。
「つまりダンジョンの中で事件が起きてるわけじゃなく、証拠隠滅に使ったパターンか」
「そうそう! これぞ完全犯罪っス!」
俺はうなずく。
「ううむ……これはいいセンいってるかもしれん! この方法なら死体も凶器も出ない」
「アリっスよね! これが事件の全貌っス!」
リンが驚く。
「えっ!? ということはハルコさんたち殺されちゃうんですかー!?」
「いや、そうはならないだろ。前の失踪事件では店ごと通信が途絶えている。悪性ダンジョンが関係するはずだ」
「んー! ややこしーっス!」
「まあ、ともかく普通のダンジョンに人を連れ込むのは現実的じゃない」
実際にやろうとした奴もいる。
リンのストーカーだ。
リンを連れ去ってダンジョンで暮らす……と言っていた。
リンがダンジョン保持者だったから可能だが、ストーカーはそれを知らなかったからな。
普通なら計画は破綻している。
誘拐までしてダンジョンに連れていけないと知ったら、どんな行動に出るか。
考えたくもない。
リンが言う。
「やっぱり管理者権限ってすごいですねー」
「チートっス!」
「使い方次第ではとんでもないよな……」
ダンジョンを移動させる権限。
ちょっと強力すぎる。
そもそもダンジョンという存在が規格外なのだ。
悪用しようと思えばいくらでも考えられる。
大容量の収納のような使い方もできるから、密輸も大量輸送も思いのままである。
地味になるが倉庫業や廃棄物処理に使ってもいい。
ま、そんなことで小銭を稼ぐつもりはないけどな。
さて、脱線してしまった。
さほど長い時間が経ったわけじゃない。
ハルコさんたちの音声もずっと聞いていたが、大きな変化はなかった――
――そこへ、ガラスの割れる音が飛び込んでくる。
「あれっ!? なにかあったみたいっス!」
どうやら、あちらで動きがあったようだ!
祝! 二周年!
せっかくだから年末年始に向けて、なにか企画を考えよう!




