バブルなお店は違法営業で!?
俺たちはイヤホンごしに店内の音声を聞いている。
「ありがとございまぁす! お兄さんのおごりなら安心ですねぇー」
「ハハッ! そうだろー? オッケーオッケー!」
うまいなハルコさん。
案内役の男はますます上機嫌だ。
ハルコさんは案内役の機嫌を取りつつ会話を続けている。
その言葉の端々から状況が見えてくる。
俺たちに伝わるように会話してくれているのだろう。
店はそこそこの広さがある。
内装は豪華で、酒や食事もふるまわれている。
高級店でタダで飲み食いできるって?
そんなうまい話があるわけない!
バブル期の日本や華麗なるギャッツビーじゃあるまいし。
そもそもパンデミック禍の時短命令で深夜の営業は禁止である。
違法かはさておき、ルール違反であることは間違いない。
案内役の男は機嫌良くハルコさんと話している。
エドガワ君は黙りっぱなしだけど大丈夫なのか?
無口でシャイな子とハルコさんがフォローしていたが、よくバレないね。
二人の会話からさらに状況がわかってくる。
案内役は店に連れてくるだけではなく、接客も担当するようだ。
他のテーブルも似た様子になっている。
店側の人間と、その客たち。
客の入りは多く、にぎやかだ。
女性客が多いが男性客もいる。
その場合は女性スタッフが接客しているらしい。
女性向けのホストクラブとも、男性向けのクラブとも違う。
妙な営業形態といえる。
ふーむ。
「たしか被害者のDさんは男性だったよな?」
「はい、そうです。あれ? 売人さんも男のひとでしたよね?」
トウコが興奮気味に言う。
「アッー! つまり売人はバイニンってことっス!」
「よくわからんことを言うな! 赤いクスリを買うだけの関係だろ……たぶん」
リンはスルーした。
「人手不足だったんでしょうかー?」
「いや……そんなシステムの店はイヤだろ……」
そもそも客引きがそのまま席につくものか?
まあ、なくもないか。
でも女性キャストが足りないから男性キャストがかわりに出てくる?
そんなわけないって!
キャッチ兼、ホスト兼、ホステス。
しかしてその正体は怪しいクスリの売人!
さらにおそらく吸血鬼!
謎すぎる!
トウコが言う。
「お店の中がダンジョンになると思ってたんスけど、なんないっスね!」
「まだ音声が拾えるってことは、そうだな」
通信が生きている。
つまりダンジョンに呑まれてはいない。
「あとから広がるんスかね?」
「そう都合よく広がるか? うーむ。わからんな」
人目のある場所にダンジョンは発生しにくい。
本来はそうだ。
だがショッピングセンター事件では人の多い場所に現れた。
これまでの失踪事件でも人間――犠牲者が何人もいたはずだ。
偶然、タイミングよくダンジョンが広がるわけではない。
なにか仕組みがある。
それも余裕があれば調べたい。
だが、さすがに通信がとぎれたら突入する。
情報収集より安全第一である。
エドガワ君がいるから、よほどのことがなければ問題ないだろう。
だが過信はできない。
リンが言う。
「ダンジョンは別の部屋にあるのかもしれませんねー」
「あっ! VIPルームっスよ!」
「俺もそこが怪しいと思う。ダンジョン領域になっているか、ダンジョンの入口があるはずだ」
「悪性ダンジョンじゃなくて、普通のダンジョンかもしれませんよね?」
「普通のダンジョン? ないとは限らないが……」
これまでのケースから考えると悪性だと思うが……。
「暴食みたいに入口を移動させているかもっス!」
「ゼンジさんみたいに管理者権限があれば、できちゃいますね!」
「そうだな。いろいろ制約はあるけど……」
俺はすでにダンジョンの入口を移動できる。
これは管理者権限の力で、すでに試した。
「たしか、ダンジョンの中に人がいるとダメなんスよね?」
「そうそう。前に試したときは自律分身が中にいたから失敗したんだよ」
あのあと、さんざん検証した。
その結果、転送門の移動は成功した。
もう条件はわかっている!
二人の様子に耳を傾けつつ……。
ダンジョンの移動について少し振り返ってみるか!
二年近く連載しているのに時間はあまり進んでいない。
パンデミック初期段階という時系列です。
(フィクションなので実在の人物、団体などとは関係ありませんが)




