ウェルカムドリンクは赤色で!?
「ほら、エっちゃんも! おいしいですよぉ!」
「……!」
エドガワ君が息をのむ気配。
ややあって、グラスを置く音。
「お、そっちの子もいい飲みっぷりだ。オーケーオーケー! 酒も料理も好きに食べてってくれよな!」
案内役からさっきまでの不機嫌さは消えている。
「やばーっ! エッちゃんも飲んだんスよね!?」
「うーむ。でも、この感じだと飲まざるをえないよな……」
「そうしないと疑われちゃいますよね……大丈夫でしょうか?」
ハルコさんが言う。
「すごく豪華なお店ですし、おいしそうなお料理もならんでますけどぉ……これって後でお金取られたり……」
案内役が上機嫌な声を出す。
「しないしない! 今日は俺のおごり! 言っただろ、パーティーだってさ!」
「なにかのお祝い事ですかぁ?」
「まあ、そんなとこだね。パーティーには君たちみたいな花が必要なんだ!」
トウコが鼻をつまむ。
「くさーっ! キザ男っス! パーティーピーポーっス!」
「うさんくささが最高潮になってきたな。ハルコさんはうまいことやってくれてるが……」
今もハルコさんは会話を続けている。
すぐに俺たちが合流する流れではなさそうだ。
リンが心配そうに眉を寄せる。
「お二人とも大丈夫でしょうか?」
「リカバリーポーションが効くといいが……心配だな」
今のところハルコさんたちの体に異変はなさそうだ。
それらしい言葉は出ていない。
即効性はないのか……?
リンが言う。
「リカバリーポーションはここでは出せませんよね?」
「ああ、三番目の枠に入れているからダンジョンに入らないと取り出せない」
手拭いにしみこませることで【忍具収納】に入れている。
もし取り出せるとしても、外でポーションを使うのは危険だ。
パージの危険をはらんでいる。
「もう一つはポーションっスか?」
「ポーションは二枠目に入れている。今取り出せるのは刀だけだ」
街中で刀を下げて歩くわけにはいかない。
今は収納に戻している。
「不便っスねー」
「便利だけど万能じゃないってとこだな」
リンが感心したように言う。
「ハルコさん、お話が上手ですねー?」
「こういうのが得意なのかもな。もう少し任せてみよう」
「店長店長、あたしたちはいつ突入するんスか?」
「ん? このまま二人が情報を得て店から出てきてくれれば、俺たちが突っ込む必要ないだろ?」
戦う必要はない。
「うぇ!? だって、あいつらが犯人っスよ!?」
「まあ、ほぼそうだ。だからといって乗り込んで大暴れするのか? 相手の数や強さがわからないのに戦うのは無謀だぞ」
相手が吸血鬼だからって殺していい理由にはならない。
これまで吸血鬼と関わったからわかる。
会話が通じる。知性があるんだ。
俺たちとそう変わらない。
おそらくは元人間。それが吸血鬼に変異したのだ。
トウコの職業であるゾンビだって、それに近いものだ。
吸血鬼やゾンビを滅ぼすべきバケモノだと断じることはできない。
ゴブリンやコウモリを倒すのとは違うのだ。
例の赤いクスリが吸血鬼の血液だというなら、吸血鬼化する原因だとも考えられる。
そういうことは戦うだけじゃわからない。
「無謀でも、敵をほっとくのはガマンできないっス!」
「もちろん人を襲ったり食い物にするようなら戦うことも考える。だが、まずは情報収集だ!」
リンがとりなすように言う。
「赤いお薬の情報を集めるのがお仕事なんですよねー?」
「そうだ。赤いクスリの出どころを探るのが任務であって、吸血鬼を皆殺しにすることじゃない。トウコもそのつもりでいてくれ」
トウコが口をとがらせる。
「ちぇー! しょーがないっスね!」
ハルコさんは案内役との会話を続けている。
不穏な動きはない。うまく情報を探れている。
調査チームは有能である!
このまま俺たちが突入するような状況にならないことを祈ろう!




